NPO法人 医療・福祉ネットワーク千葉 研修助成
千葉県病院群初期研修プログラム

研修医 細田豊

 

 まだ暖かさの残る10月初旬,千葉県病院群初期研修医5名と,千葉県がんセンター 木村秀樹副センター長、坂入雄一医師の7名は,カナダ,トロントにあるToronto General Hospital(TGH)1週間の研修に向かいました.

 この研修はNPO医療福祉ネットワーク千葉の助成で,毎年行っているもので、昨年はデトロイトのプロビデンスホスピタルへ行っています。今回は世界的に名高いTGHでの研修で研修2年目の希望者が参加となりました.以前より海外における医療事情を学び,日本の医療と比較する事で日本の医療をよりよくできるのではないかと考えていた私にとって,大変貴重な研修の機会となりました.

 研修受け入れ先は,TGH胸部外科部門の安福和弘先生です.先生は千葉大学病院呼吸器外科にて研鑽を積まれ,昨年度よりTGHにスタッフとして移られました.Olympusと共同で開発された超音波内視鏡は,従来の縦隔鏡を用いたリンパ節生検を,気管支鏡下でより低侵襲で行う事が出来る装置であり,現在世界800施設で使用されています.この業績が高く評価され,先生はカナダだけでなく執筆や講演活動など世界中で活躍されています.今回の目的は,カナダの医療システムを学ぶだけでなく,海外で活躍する日本人医師にお会いする機会にもなりました.

 TGHはトロント市内の中心部にある近代的な建築の大病院です.研究施設や小児病院,救急病院なども併設され,トロントだけでなくオンタリオ州の医療の中枢を担う病院でした.ホテルから朝日が昇ったばかりの肌寒いトロント市内を歩いて病院に向かいます.日程は,朝7時に病棟での回診に参加し,術後患者の状態を把握,回診後は看護師も含めたカンファレンスを見学,8時から手術または外来に向かう形となりました.

 TGHは世界各国からの後期研修医を受け入れており,私はドイツから来ている後期研修医の外来診療を見学しました.患者は診察室に呼ばれるのではなく,先に診察室で待っており,医師が紹介状や画像などを確認した後,その診察室に向かいます.部屋に入ると患者に挨拶,握手をした後,予備診察を行っていきます.私も簡単に自己紹介し,握手して同席の許可をいただきました.疾患は肺癌や重症筋無力症,胸腺腫瘍などです.経過や自覚症状,治療,予後に対する不安,患者の抱える問題などは日本と同じでした.しかし医師と患者の関係は違っていました.患者とその家族は椅子やベッドに座り,足を組むなどしてリラックスした姿勢をとっています.そして自分の思いや疑問を率直に話していました.医師は必要な事を手短に話し,患者の質問に対して丁寧に答え,同意書にサインをもとめます.日本の様に手術や合併症ついて詳細に長い時間をかけて話をする様な事はありませんでした.また肺癌や胸部の大きな手術でも術前の検査は外来で済ませ,入院は手術当日でした.事務的な事は医療秘書が患者のスケジュールをしっかりと管理し,医師は診療のみに集中していました.外来診療を見学した感想として「簡素だが丁寧であり,医師患者関係が成熟している」「合理化と分業化がなされている」という印象を受けました.日本は丁寧な説明を心がけていますが,時として一方的な説明に終始し患者が知りたい事があやふやになっている事があります.患者は知りたい事をしっかりと伝え,医師は個々の患者に対応した説明をする.カナダでの患者と医師との関係は,個人として互いが対等と考える文化が根底にあるのではないかと考えさせられました.

 手術見学では肺移植を見学することができました.日本では1997年臓器移植に関する法が制定されてから20091月までに127件の肺移植が行われています.TGHでは年間日本の12年間の合計の3倍近い300件以上の肺移植が行われています.日本にも移植の技術があるにもかかわらず,肺線維症など肺移植によってしか救えない命が失われている現実を再認識させられました.

 研修は短期間でしたが多くの驚嘆に満ちたものになりました.今後この経験を生かして広い視野で日本の医療を見つめ,日本の医療の発展に貢献していきたいと思います.最後に今回の研修の機会を与えて下さった,NPO法人 医療・福祉ネットワーク千葉理事長崎山 樹先生,千葉県病院局の皆様,安福先生,木村先生に心から感謝申し上げます.