平成21年度
「患者と家族の研究基金」事業の実績報告
Cancer Research Funds for Patients and Family



患者さんにやさしい放射線治療法から
高校生向けのがん啓発冊子の発行まで7件



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研究ライン

@      「患者体内の標的臓器の呼吸性移動を考慮に入れた放射線治療手技の開発」
           
                      千葉県がんセンター 放射線治療部  小島 徹
 
 現在、千葉県がんセンターでの放射線治療手技は、標的となる臓器の呼吸性移動が治療精度に与える影響を考慮していないため、治療成績向上の妨げの一因となっている。そこで我々は、呼吸性移動を再現できる精度検証用の機器を作成し、その問題点を明らかにした。結果より、呼吸同期照射と補償フィルターを用いた強度変調放射線治療法を提案し、その精度検証を行うことにより、良好な精度を担保し、かつ患者さんにやさしい放射線治療手技を確立した。



A  
                      千葉県がんセンター がんの分子疫学コホート調査研究
                          ―オーダーメイド型の予防・医療を目指して―

                         千葉県がんセンター がん予防センター  李 元元
         
 
 千葉県の地域特性を踏まえ、患者さん一人ひとりの体質や生活習慣に応じたオーダーメイド型の予防・医療を実現するため、千葉県がんセンターは、最終的に5万人以上の患者さんを30年にわたって追跡調査する「千葉県がんセンターがんの分子疫学コホート調査研究」を計画している。
 
 平成20年度から、市原市において、遺伝子調査や体質と疾病の関係について県民の認識や意識を把握することを目的とし
た先行調査を実施した。協力者は遺伝子調査に対して関心が高かった。一部否定的なイメージを持った方も、遺伝子型解析結果を返却した後にはこの調査を容認する方向へと意識を変えていた。これらの結果から、自身の体質を知ることが健康作りの動機づけになる可能性が示された。


B      遺伝子診断を用いた術後乏突起神経膠腫に対する化学療法先行療法の有用性の検討   

                        千葉県がんセンター  脳神経外科  堺田 司 
 
 「乏突起細胞系腫瘍」は1qLOHの有無で化学療法の効果に差がある。2001年より1qLOHの有無により治療法を分け、術後の後療法として化学療法を先行群とそれ以外の群とに分け、治療成績を検討した。結果は、乏突起神経膠腫瘍、退形成性乏突起膠腫ともに、無再発生存期間は以前に比べて短くなる傾向がみられたが、生存期間には差は認められなかった。早期に再発を発見し、治療を開始することで、再発時におけるADLを下げずにすむことが可能となった。


C           骨肉腫におけるbiomarker としてのmicroRNA発見解析
                          ―採血で薬の効き具合がわかるか?―

                        千葉県がんセンター 整形外科 岩田慎太郎

 
  骨肉腫は小児悪性骨肉腫瘍で最多のものであり、 その5年生存率は近年80%に迫るものである。その反面、抗がん剤抵抗性の患者群の5年生存率は50%以下にとどまり、この群に対しては抗がん剤の変更により予後の改善が期待される。しかし、現在のところ骨肉腫における腫瘍マーカーは存在しない。われわれは患者血清中のmicroRNAの発見解析を行い、正常人との比較によって骨肉腫患者に特徴的なmicroRNAプロファイルを発見した。これらの中に骨肉腫の有力なbiomarkerが存在すると考えられる。

D 
                          小冊子「高校生からの健康生活ノート」

                             ねむの会代表  金井弘子
          

 ねむの会が2006年より開催してきた高校生への「健康セミナー出前講演」は少しずつ活動の輪を広げている。このセミナー開催当初より高校生向けのがん啓発冊子がなく、作成の必要性を感じていた。今回、乳がんについての啓発だけでなく、社会へ出る前に必要なタバコ喫煙のコントロールや子宮頸がんの啓発などについても、若い時から知識として持ってもらいたいと思い、小冊子を作成した。


E
                            自己成長カウンセリング講座
     
                             アイビー千葉 齋藤とし子

 

 がん対策推進計画が施行されて以来、各都道府県でピアサポーターによる患者サポートが実施されるようになり、千葉県でもピアサポーター養成研修が実施された。あけぼの千葉が2003年4月以来続けてきたピアカウンセラー養成事業に、専門家の指導の必要性を強く感じ、自己成長カウンセリング講座を企画した。12回の講座を終了し、受講者のアンケートもまとめた。



 F
                        拠点病院の相談窓口と患者会の協働へ向けて

                             支えあう会α  五十嵐 昭子

 
  平成19年に施行された「がん対策基本法」に基づく平成20年策定の「千葉県がん対策推進計画」では「相談支援センターの充実」があげられている。そこに患者会としてどのような協働関係が作れるのか模索した。平成21年9月21日に開かれた「全国がんサロン交流会in島根」への参加と、平成22年2月から3月に千葉県内の13の拠点病院と国立がんセンター東病院を訪問調査したので、そこで得たことを報告する。

 研究ライン

    研究ボールNPO医療福祉ネットワーク千葉では、最先端のがん医療や、患者さんの治療生活に役立つ研究に対して助成し、
      がん医療、がん予防の向上を目指しています。21年度の助成対象研究は以上7件でした。
      今後も、毎年、研究への助成事業を続けていきたいと考えています。