「目からウロコが落ちた」
「食感がこれまでと全然違う」

患者さんや家族からも驚きの声
保存方法や味付けに具体的な質問も

千葉県がんセンターで
ケアフード講演&試食会

2010年7月26日
 ケアフード全体写真


  「目からうろこが落ちました」「のど越しがさらっとしていて食べやすい」。7月26日に千葉県がんセンターで開かれたケアフードの講演&試食会では、ニンジンや牛肉のピューレを実際に試食した参加者からその味と食感のなめらかさに驚きの声が上がりました。治療中のがん患者さんを支える家族からは、ピューレの冷凍保存に向く食材や、味付けの方法について具体的な質問も相次ぎ、がん治療を支える家庭での食事作りの一工夫としてケアフードを取り入れていこうという気運が高まりました。


  講演と試食会は千葉県がんセンターとNPO法人医療福祉ネットワーク千葉の共催で、講師にホテルメトロポリタン エドモント・フレンチレストラン「フォーグレイン」の石原雅弘料理長を招いて開かれました。講演の中で石原さんは、ピューレやジュレなどフランス料理の調理法を取り入れた流動食「ケアフード」を考案した経緯や、約一年前からレストランで要望に合わせた流動食フルコースの提供を進めていることなどを紹介しました。
参加者の様子
          
           ピューレ三品を実際に試食


  石原さんが調理して真空パックに詰めて持参したニンジン、玉ねぎ、牛肉の赤ワイン煮込みのピューレ3品が参加者全員にふるまわれました。

  ニンジンは水と塩少々で20分程度煮込み、ミキサーにかけただけ。玉ねぎも粗く切ってバターと一緒に煮て水分を飛ばしミキサーでかくはんするのみの簡単な調理法です。石原さんは、ケアフードの特徴であるピューレやゼリー、ムースなどはフランス料理では普段からよく使う手法で、家庭でも簡単にできることを強調し、「患者さんも家族も同じものを同じテーブルで食べられたら食事についていろいろ話がはずんで、食卓が楽しくなります」と語りました。
 
   ↑石原シェフの講演に耳を傾ける参加者
三種類のピューレ ピューレを試食する参加者
      ↑試食した三種類のピューレ
     玉ねぎ(上)ニンジン(右下)
     牛肉赤ワイン煮込み(左下)
    ↑試食する病院スタッフ参加者
   
 「甘くてとろけそう!」「のど越しもいいね」
 

                  ほとんどの食材で冷凍可能、味付けはミキサーかけながら

 参加者からは「のど越しがさらっとしていて、こってりしていない」「予想していた味とはまるきり違って美味しい。母にも作ってあげたい」などの感想とともに、冷凍できる食材の種類やピューレの味付けのコツを確認する質問が挙がりました。石原さんは加熱してあればほとんどの食材が冷凍できると説明。色があせやすいので、葉っぱものの野菜はそのまま使うことを勧めました。味付けについては、ミキサーでかくはんする際に少しずつ加えれば味が濃くなる心配はなくなるとアドバイスしました。



                      患者さんや家族 「お祝いごとあっても外食しにくい」
                      パネルディス 食事の悩みをテーマに討論


  講演会に続きパネルディスカションでは医師や患者会スタッフ、医療現場を取材するライターらが意見交換しました。まず、患者会や相談支援センターには患者さんや家族から食事についての悩みが多く寄せられていることが報告されました。患者会「アイビー千葉」代表の齋藤とし子さんは「抗がん剤治療で味覚障害をおこして全然食べられないという方もいらっしゃる。家族からは栄養面での心配をする声も多い」と説明。父親をすい臓がんで亡くした患者会「支えあう会α」の野田真由美さんは父親に食べさせなければと必死だった母親の姿を思い出しながら、「父の闘病中、食事の時間は父に気を遣ってみんな息をひそめて食べていた。卒業式や入学式のお祝いごとがあっても皆で同じものを食べられないからと外食には一度も出かけられなかった」と打ち明けました。
パネルディスカッション  石原シェフ
↑がん治療と食事をテーマに意見交換した
パネルディスカッション
「食べることは生きること」 
        ↑参加者からの質問に答える石原シェフ


                 味や飲み込みやすさなどデータを集めてエビデンス作りを
                 がん治療と食事、新しい視点で研究スタートへ

 
 パネラーの間では、がん治療中であっても食べられるもの、食べたいものを口にすることが生きる活力につながるという考え方で一致。石原さんは「時には体にいいか悪いかより、食べたいものを食べることを優先してもいいのではないか」と話しました。千葉県がんセンターの鍋谷圭宏消化器外科主任医長は「人間最後に残るのは食べたいという欲求。患者さんが食べたいものを食べた場合にのどに詰まらないようにする、むせないように工夫してあげることこそ医師の役目だと思う」と患者さんの食べたい気持ちを大事にする医療の提供が必要であると強調しました。

 抗がん剤治療や放射線治療と食事のかかわりについてはまだ学問的な研究は進んでいないのが現状です。NPO医療福祉ネットワーク千葉の竜崇正理事長は「がん拠点病院などで多くの患者さんにケアフードを試食してもらい、味や飲み込みやすさの意見を聞いてエビデンス(医学的根拠)を組み立てていく必要がある。患者さんの病態別に勧められる食事の種類も見えてくるかもしれない」と期待を寄せました。医療ライターの鈴木百合子さんも「特に在宅治療での食事は大事。ケアフードは食事と治療という新しいアプローチで食を考えるきっかけになっている」とまとめました。

    
講演&試食会にご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。