クローズアップ!がん予防
肺がん、乳がん、子宮体がん
遺伝子診断も有効

がんの最新情報も続々と・・・

たばこ、喫煙者の吐く息にも発がん性物質
夜更かし、30歳過ぎの初産、脂肪の多い食事も乳がんの原因
子宮体がんの予防には閉経前後のピル服用が効く
遺伝子診断で効果的な抗がん剤、体中のがんが消えることも



NPO法人 医療・福祉ネットワーク千葉
第4回 市民公開講座
2012年1月14日

プログラム、講演抄録、配布資料のページへ移動します。(クリックしてください)


  「タバコは吸わない人も要注意」「初産を早めに、脂肪の多い食事とアルコール減らして」「子宮体がんの予防にはピル服用を」―。NPO法人医療福祉ネットワーク千葉の第四回市民公開講座は1月14日、千葉市中央区のホテルプラザ菜の花で開かれました。今回のテーマは「クローズアップ!がん予防―検診、早期発見、遺伝子診断」。講師陣からは、肺がん、乳がん、子宮体がんのメカニズムとともに、予防対策に踏み込んで具体的な提案が次々と出されました。臨床遺伝専門医からは、遺伝子診断からがんの治療法や予防を探る新しい視点も示され、より客観的にがんを見つめるきっかけに。がんの予防についてはまだまだ未知数の部分も多いだけに、参加者からも「目からうろこが落ちました」などの声が上がりました。

■講演会 
タバコと肺がん
 タバコに放射性物質ポロニウム
  受動喫煙でがん発症も
  
 タバコ問題を考える会・千葉代表の大谷美津子さんは、 タバコの煙に含まれる発がん性物質が細胞内のDNAを傷つけるため「がん」を発症するという仕組みを説明。タバコには放射性物質のポロニウムが含まれ、放射線量も一日1.5箱吸う人で、最大60ミリシーベルトが体に取り込まれるという具体的な数値を示しました。さらに問題は受動喫煙で、喫煙者が吸うときの煙のみならず吐く息にも発がん性物質が含まれているとし、喫煙者は吸った後に50回外で深呼吸してから家に入らないと、周りに発がん性物質をまき散らすことになる、深呼吸しないまま家に入ると7〜8時間は毒物をまき散らすことになると強調しました。

 受動喫煙による肺がんの発症も多く、肺がん死亡者は年間700人。がん以外にも糖尿病やメタボリック症候群を引き起こすこともあると強調しました。一本でも吸うとがんになるリスクがある怖さもあるタバコ。大谷さんは、「最近はニコチンパッチやチャンピックスという薬もある。喫煙者は禁煙外来等に通ってタバコをやめる努力をしてほしい」と訴えました。

 
●乳がんの原因
  女性の人生と乳房は女性ホルモンで彩られる
  検診と早期発見が一番


 亀田メディカルセンター乳腺センター長の福間英祐さんは、「女性の一生と乳房はドラマ。その陰の主役が女性ホルモン」と表現。乳がんの原因に最も関係があるのは初潮がきてから一回目の出産までの期間が伸びていることと指摘。晩婚化、高齢出産により、乳房が毎月の生理で女性ホルモンの影響を受ける期間も長くなり、女性ホルモンの量が増えてがんのリスクが高まるとしました。また、動物性脂肪の多い食事、アルコールも関係しているといいます。意外な関係性として、夜更かしや30歳過ぎての初産もリスクを上げる要因になるという傾向も示しました。
 
 乳がんは、遺伝、家族歴も少なからず関係していると指摘。家族に乳がんにかかった人が一人いる場合は、リスクが1.8倍、二人いると3倍といいます。食生活の改善や出産を前倒しするといった工夫はできても、今のところ乳がんを予防できる決めてはないといい、検診と早期発見に勝る対策はないとしました。40代後半から50代を中心に、20〜30代の最も働き盛りで結婚、出産と人生でも忙しい時期に乳がんのリスクがあることから、「がんにり患して人生の選択を迫られることもある。その意味でもできるだけ早く見つけたほうがいい。治療することになったとしても、早期であれば乳房の形をきれいに残すこともできる。金銭的にも安く上がる」とメリットを強調しました。

 
●子宮体がんの予防
 
卵胞ホルモンのしわざ、閉経前後に多発
 予防は脂肪を控え、ビルの服用が効果的
 「がん家系」による発症のケースも


 東京慈恵会医科大学附属柏病院産婦人科教授の佐々木寛さんは、女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、子宮体がんにはがんを増殖する性質をもつエストロゲンが関与していると説明。閉経前後の50代以降、60〜70代のり患が中心といいます。閉経すると排卵を進めがん化を抑えるプロゲステロンが減り、エストロゲンが増え細胞分裂する際のミスコピーも増え、がんになるという仕組みを説明しました。

 予防法は2種類あるといいます。がんを増殖するエストロゲンを作る脂肪を摂りすぎないようにすること、そして、経口避妊薬ピルの服用です。ピルはがん抑制作用を持つプロゲステロンを人工的に合成したものでがん化を抑えるといいます。さらには、更年期障害の発症も抑えるため、閉経前後の服用は効果が高いとのこと。

 また、子宮体がんは「がん家系」との大きく関係したがんと指摘。リンチ症候群(HNPCC)という体質を持った家系の場合は、子宮体がんのほか大腸がん、小腸がん、尿管がんなども含めてがんにかかる傾向が高いとしました。「こうしたがんを発症した家族が多い場合は、自分も
その体質がある可能性もあると疑って検診を受けて」と強調しました。特に子宮体がんは出血しか症状がないため、十分に注意してほしいとしました。


がんの遺伝子診断
  遺伝子異常を調べ、抗がん剤の効果を見極めることも
  市原市で長期のコホート調査もスタート


 千葉県がんセンター研究局ゲノムセンター部長の横井左奈さんは、まず「がんが遺伝子の異常で起こる病気」との定義を説明。 これまでがんの診断はがん細胞の形で判断する病理診断が主流でしたが、横井さんは「病理診断に加えて遺伝子診断をすることで形では判断できないさらに細かな異常を見つけることができ、異常にあった抗がん剤を使い効果を上げることもできる」と指摘しました。

 なぜがんができるのか。ヒトは、受精卵の時にあった一セットの遺伝子のコピーを繰り返してそのセットを60兆個を持っており、食べ物や環境、ウィルスなどの刺激を受けて遺伝子に傷がつき、遺伝子の異常が増えていきます。横井さんは「その異常がまたコピーを繰り返して増えてしまい、がん化する」とメカニズムを解説しました。また、受精卵のときから傷がついた遺伝子を持つケースもあるといい、その場合は「遺伝性のがん」として診断することもあるとしました。

 千葉県がんセンターでは、こうした遺伝性のがん体質を持っている可能性のある患者さんに対して「遺伝カウンセリング」ができる体制を準備しているとのことです。

 また同時に、まだがんにかかっていない人を対象に、遺伝子と生活習慣とがんのなりやすさを疫学的(アンケート)に調べる、コホート調査にも取り組んでいると説明しました。千葉県市原市で、検診受診者を対象に尿、血液などのデータを取りながら、タバコ、お酒、食生活などのアンケートを行い、それを20〜30年間継続する計画。現在2300人程度のデータが集まっていて、今後一万人にまで増やすといいます。「がんの予防法まで確立するのが目標です」。

 


パネルディスカッション
  講演いただいた演者の方との意見交換会も開かれました。
  テーマは「遺伝子と肺がん、乳がん」
  座長)竜崇正 NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長


―タバコを吸っても肺がんなどにならない人もいる。実際、こうした体質は遺伝子診断などで分かるものなのか。

横井氏)
科学的なデータがまだまだ不足している。タバコに関していえば、受動喫煙の問題もあり、がんになりにくいという体質が分かった人がいたとしても、「吸って大丈夫ですよ」とは言えない。

木村秀樹千葉県がんセンター副センター長)
どれだけタバコを吸っても肺が黒くならない人もいる。反対に、タバコを全く吸わないのに、肺がんになる人もいる。遺伝子が関係していると考えられる。

大谷氏)非常に混雑した交差点を誰にもぶつからずにわたりきる人もいるし、戦争のさなかにも弾にあたらずに生き抜く人もいる。いわゆるスーパーマン。今の時代にあてはめれば、農薬汚染、食品添加物・・・みんながスーパーマンではない。害となるもの(特にタバコ)はやめるように啓発するのが我々のつとめ。

―乳がんと遺伝子について。分かっていることはありますか。

福間氏)
BRCA1,2など原因として分かってきている遺伝子もある。日本人にあった遺伝子診断ができるよう地道な研究をする必要がある。

竜氏)
乳がんは、インテリ女性、若い人の間で本当に増えている。患者団体などの協力を得て、もっと遺伝子診断の研究をする必要があると思う。

福間氏)
若い人で乳がんになった方、家族歴のある方にはカウンセリング体制も整えて取り組む必要がある。結婚前の方に対する検査、患者さんのご家族の検査など問題点も多いので慎重に。

竜氏)
遺伝子異常の診断と分子標的治療薬により治療に光明が出てきた。悪性ほどターゲットとなるものが見つかりやすく、治療もしやすい。


―がん検診。科学的根拠に基づく検診が行われていないのが現状。乳がんは触診とマンモ、胃がんは造影検査。ヘリコバクターピロリ菌の検査はしない。このままでいいのか。

木村氏)
肺がんの検診は、レントゲン検査で分かるがんは、治る割合が1/3以下。2cm以上のがんになると転移が始まっている。実際は、レントゲンではなくCT検査をやらないと肺がんは見つからないといってもいい。肺がんになりたくなかったらCT検査をすれば5mmのがんでも分かる。

福間氏)
乳がんの8割はマンモグラフィで見つかるが、2割は見つからない。


―遺伝子治療について。研究段階だが、抑制遺伝子を注入するという方法があるが、効果のほどはどうか。

木村氏)
抑制遺伝子を細胞に組み込むという手法も出てきている。一番の問題はがんは我々が考えている以上に頭がいいということ。ずるい。最初は効いていた治療が効かなくなり、必ず再発する。抵抗する細胞が出てきてしまう。一つの抗がん剤、分子標的治療薬ではたたききれない。

―免疫療法と遺伝子治療の関係については見解があるのか。

木村氏)
放射線、抗がん剤、手術と標準治療を組み合わせて、それに足りないところを補うという意味で免疫療法もきく。分子標的治療薬と免疫療法を組み合わせるという方法もいいと思う。免疫療法は、守備範囲が広いからがんを含めて体に合わないものを排除する効果がある。しかしある程度大きくなったがんに対しては効かない。








 









当日は多数のご参加ありがとうございました。
市民公開講座の詳細は、平成24年3月発行のニュースレターでも紹介していますので、お手に取ってみてください。
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