データやエビデンスに基く論理的な評価
           カンファレンスのきめ細かさが印象的
           60の手術室がフル回転
           外科医の技術磨きにもプラス

            千葉県救急医療センター集中治療科
            山本 直樹 

 


平成24年10月下旬、心臓血管外科の3人の先生方(千葉県救急医療センター:山口聖一先生、船橋医療センター:榎本吉倫先生、千葉県循環器病センター:椛沢政司先生)とともに、米国コネチカット州のイェール大学病院(Yale-New Haven Hospital)で研修させていただく機会に恵まれましたので報告いたします。

 今回受け入れて頂くことになったのは、Vascular Surgery, Cardiothoracic の Prof. B.Sumpioです。山口先生をリーダーに心臓血管外科がメインの研修企画と承知していましたが、現在私は救急科専修医であり、Yale University では専ら興味のある救急診療と集中治療を通して見識を深めるべく、山口先生を通してICU配属の希望を伝えていました。

    







 

New York経由で10月21日(日)に現地入りし、翌22日(月)から研修が始まりました。初日は6:30の Vascular Conference から参加しました。Evaluating Conferenceが続き、residentsの評価にも立ち会って米国residencyの厳しさも垣間見ました。その後私は South Pavillion 6F SurgicalICU に案内してもらいそのまま ICU Conference/Round に参加しました。ICUでのdiscussionは非常に細かく、議論も丁寧でした。常に病態に即して論理的であること強く求めており、論理の根拠が必ず所見や検査、dataやevidenceに基づいていることを要求されていました。これ自体は決して珍しいものではないかもしれませんが、午前中はほぼ Conference/Round に費やしている点は刺激的でした。個人情報保護は徹底されており、午前の Conference 終了時に必ず chief resident から patient report などの印刷物は回収されました。全ページに出力者の名前を明記してあり、責任もって病棟外への持ち出しを防止しているようでした。

 

 


 
 ハード面としては、全てが個室であったり、患者専用の電子カルテ端末を使って全てがonline処理されている点は合理的に感じましたが、例えば人工呼吸器やモニターなどは、今の所属する施設と全く同一で馴染み深く、処置を含めて医療行為に本質的な差は感じませんでした。ただオペ室(OR)は60室もあり、朝7時半の入室からフル回転してる様子などはスケールの違いを感じました。この規模で外科は執刀に専念できる環境はなかなか日本では真似しにくいと思いますし、この環境で外科医が修練していけるのは非常に素晴らしいことだと思いました。

SurgicalICU入院の患者さんはガンのターミナルや、交通外傷、銃殺未遂など日本で経験する似た症例も多い反面、これまで日本では経験したことない症例もあり大変勉強になりました。お昼は軽食を囲みながら定例のセミナーが開かれており、neurologyの教授などがICUスタッフレクチャー(私の研修中はcomaやtraumaなど)もありました。このような教育的配慮に基づく環境づくりは日本の大学病院と似ていると思います。



 

滞在中はICUとオペ室ばかりにいたわけではありません。イェール大学には美術館(British museumとArt Gallery)を併設していると聞いていましたので、2日目の夕方に行きました。フランドル絵画からゴッホやピカソまで絵画史に残る名作が多数、アジア芸術や日本美術(NETSUKE)もあり1日中いても飽きない位の質と量でした。また日本美術も引き寄せてこれだけの収蔵品をもつイェール大学の歴史と奥深さにも驚きました。 




 帰国する最終日はニューヨークのTimes Squareで一泊し、半日だけ各自で自由に観光しました。私は Metropolitan と Columbus Circleに出かけました。その頃たまたま public art のタイミングに出くわし、像の至近距離まで近づくことができました。New York在住でも二度と経験できない貴重な view に大変感動しました。

 
  研修は短期間でしたが、非常に密度の濃いものでした。夕方にはホテルで一旦仮眠をとらないと夕食にも行きづらいくらい疲れていましたが、今となっては懐かしい思い出です。今後はこの経験を活かして広い視点で日本の医療を見つめ、日本の医療の発展に救急診療の現場から貢献していきたいと思います。来年以降も同様の事業が継続され、見識を深められる臨床医が増えることを強く望みます。最後になりましたが、今回貴重な研修の場を与えて頂いた、医療福祉ネットワーク千葉の竜崇正先生、千葉県病院局の皆様、引率していただいた山口聖一先生、千葉県救急医療センターの麻酔科・集中治療科の諸先生方、そしてなにより細かい配慮をしていただいたDr.Sumpioに心より感謝申し上げます。