看護師7年目、自分の業務見直すきっかけに
       患者の異常を見逃すリスクの回避体制が整う
       “かゆいところに手が届く”日本の看護、欠点もはらむ
       

           千葉県救急医療センター 
             看護師 丸山 裕美



 


  
                
初の海外、自分の看護業務を外側から見る

2013年11月、米国クリーブランドクリニックへの医療研修に参加させていただきました。私は新卒で千葉県救急医療センターのICUに就職して以来7年間、異動することなく同部署で働き続けています。海外へは旅行の経験すらありませんでした。同部署で勤務し続けていく中でも、飽くことなく日々新たに学ぶべきことが出てきます。日本には日本の文化・精神にあった医療の発展の仕方があり、今現在目の前で行われている医療・看護は先人たちの努力の集大成だと思って学んできました。けれども、7年目を迎えてやっと、自分の携わっている医療や看護を外側から見る、つまり視界を広げて見直す必要性を感じるようになりました。そんな折に、この貴重な研修へ参加させていただくことになりました。

 




 


 【クリーブランドクリニックの概要】

                 世界80カ国から患者受け入れ
                院内は患者移動用のカートも走る


クリーブランドクリニックは1921年に4人の医者と40人の従業員で創設された。初めて総合診療を行った。現在、2800人の医師、11000人の看護師、総従業員数41000人。年間外来患者数280万人、年間入院患者数7万人。世界80か国から患者を受け入れている。当然各国の通訳もいる。16の診療科がある。特に有名なのは心臓外科。心臓外科手術件数は本院だけで4300例。うち心臓移植は年間50~60例。数・成績ともに19年間、全米TOP1。クリニックの建物は各科ごとに棟が分かれている。エントランスや通路は広く、天井は高く、開放感がある。駐車場から外来棟をつなぐ渡り廊下は、患者を乗せるためのカートが走っている。ビュッフェ形式のレストランが3か所、その他寿司屋、コーヒーショップ、ファーストフードあり。各種雑貨、おもちゃ、服などを取り扱うショップが3店舗。これらレストランやショップは、患者・家族、職員誰もが利用可能。



【研修概要】

                    
ICU、開放的な空間
                 プライバシーはきちんと守られる


  研修は医師・看護師関係なく、参加したいイベント(各種手術見学、ICU・一般病棟ツアーなど)に人数を調整して参加しました。私は主に心疾患メインのICUに勤務しているので、ICUを中心に見学しました。まず建物や機器、システム面で素晴らしいと感じました。全て動線や作業に無駄がないように作られていました。輸液ポンプは小数点以下第2位まで設定可能で、その本体は10㎝四方程度のもの、1種類。10種類の薬剤が繋がれたとしても1本のスタンドに全て設置できるほどでした。点滴棒は天井から出た可動式のアームに吊るすようになっていて、CTや手術など患者が移動しなければならない場合、その棒を外してベッドに刺し直すだけ、という簡便さ。ICUはオープンフロアではありますが、ベッド間の柱とカーテンで仕切られ、ほぼ個室状態でプライバシ―は守られていました。ICUは閉ざされた空間になりがちですが、ほぼ全てのベッドの頭側には窓が設置されていて自然採光が可能でした。昼間はほとんど照明を使用していませんでした。

                  
医師、iphoneでいつでもデータ把握
                   リスク回避のハイテク随所に


  一般病棟は全個室でモニター以外の医療機器は全て壁面収納、自動体位変換可能ベッド、バスルーム、家族用ベッド(不使用時はソファーになる)、が完備されていました。個室だからこそ起こりうる転倒・転落や、病棟が広く患者数が多いからこそ起こりうるADL制限や食事制限の間違いに対しては、誰もが通る廊下の各所に設置されたモニター上に部屋番号と各種制限やリスクをマークで表示する対策をとっていました。治療指示、データ、看護記録は全て電子カルテ上に記載、常勤の医師は全員iphoneを持たされており、パスワードの入力で自宅からもデータをみたり、指示を追加したりできるようになっていました。看護師もまた、患者の状態が変わった場合、電子カルテに内容を記載すれば、主治医に連絡が取れるようになっていました。ただし、ICUに関しては一部、手書きの経過表を使用していました。


                       アロマテラピスト、カラーテラピストも在中
               数えきれないほどのコメディカルが患者をケア

   コメディカルは多数いて、全てがその道のスペシャリスト。ME、呼吸療法士、PT、OT、ST、栄養士、アロマテラピスト、カラーテラピスト、体位変換専門の看護助手、患者搬送専門の看護助手、などなど数えきれない種類のスペシャリストが患者を取り囲んでいました。それぞれその道のスペシャリストにケアしてもらえることは患者にとって申し分ない医療サービスの提供であると思いました。看護師は全て完全2交代制(12時間交代)で、ICUは昼夜問わず2:1看護。私が見学させていただいた日は心外手術が20件入っていたようですが、心臓専門のICUは8部署あり、術後はそれぞれに散らして入室させるので、別段忙しそうには見えなかったのが本音です。看護師も一部機能別を取り入れていて、薬剤の取り扱いはそれ専門の看護師がいました。薬剤投与量も自動でポンプからパソコンへ入力されるような仕組みでした。実際、看護師は可動式のパソコンの前に可動式の椅子に座って、カーテンで区切られた2患者間でバイタルサインズの打ち込みをしている、という印象が強いです。つまり、患者の異常の有無を見逃してしまうかもしれない作業が少ないのです。観察する時間、十分にアセスメントする時間、異常があればすぐに報告できる体制が整っていました。それだけ、病院全体がハード・システム・マンパワー・それぞれの技術が効果的効率的に構築されていました。

              患者さんの言外の痛みを読む力が求められる日本の看護
               仕事の範囲や目的が明確なアメリカの看護
               メリット、デメリット 改めて考える好機


  また、文化・国民性・美徳の違いを感じたのも事実です。彼らの仕事内容は明確で、仕事の範囲や目的がしっかり区切られていました。私の勤務する病院では、看護師はいわば「何でも屋」で上記のような各業種の代役を務めなくてはならないのと同時に、「行間を読む」仕事に重きが置かれることがあります。看護師としてというより、その患者に寄り添った一人間としての想像と行動が患者のその後を左右することがあります。日本人には、はっきり自分の意思を伝えない部分や人様に迷惑をかけてはならないという遠慮、痛くても周りが忙しそうであれば我慢するなどの空気を読む(?)行動があります。私たちは、患者から発せられる言葉や目に見えるものだけでなく、その裏側に隠れた真意を読み取り、看護にあたることが要求されます。その行動がないと、危険な信号を素早く察知できないからです。また、そういった行動が「かゆいところに手が届く」とか「気配りができる」とか「気が利く」と評価されることが多いのも事実です。これは日本人のいい面でもあり、様々なことを複雑にしてしまう欠点でもあると思います。




 

 

 


  今回の研修で、最先端の医療・看護を見せていただき、今自分のいるところの利点・欠点を再認識することができました。また、精神文化的な側面でも大変学びになりました。今後の仕事に活かしていきたいと思います。大変貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。