「どこでもマイカルテ」の2本柱

@患者に必要な情報を携帯電話に取り込み、どこでも利用可能
A患者情報をクラウド上にのせ、診療所の枠を超えて共有


重複診療を回避、医療費10兆円が浮く?!
国民総背番号制の導入も必須

これまで4回の研究会開催、国の政策と同じ方向性で一歩ずつ
病院、介護施設、患者、産業界が一体となり現場の声とりまとめ

NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉
竜崇正理事長が語る


「Medical Tribune」 平成24年2月9日号
  に掲載された記事はこちらから
  「ICT活用で地域医療連携強化へ」 @ A



   患者が診療所や病院(診療所等)で受けた医療に関する情報は、法的に5年間の保存義務があり診療所等で保存される。それらの診療情報は、患者が受診した診療所、一般病院、専門病院、介護施設などでそれぞれに保存されているため、継続した情報が患者自身にも手術などの治療を行う病院でもわからないのが実情である。このため、同じ検査が何回も行われるなどの重複診療を行なわざるを得ないのが現状である。

                   患者情報は患者自身のもの

  本来、患者情報は患者自身のものであり、患者に代わって診療所等がお預かりしているに過ぎない。診療所等では、患者が他院を受信する際には診療情報提供書を渡すが、それは患者用ではなく他院受診用であり、患者がそれを見ることはできにくい。患者の治療方針決定の際には、患者は自分の画像や検査結果などを示され、納得して治療を受ける建前になっているが、限られた時間の診察室内で、説明の全てを理解するのは難しい。納得して治療を承諾したはずなのに、診察室を出て自宅に帰った後に、果たしてこの選択は正しいのか思い悩む患者家族も少なくない。勇気のある患者は、自分の検査データーを
CDなどに焼いてもらい、セカンドオピニオンを受けに他院を受診することになるが、この時にITに強い患者は自分のコンピューターで自分の画像をじっくり見ることは可能である。患者は自分の受けた治療の結果が良い場合は納得したことになるが、結果が思わしくない場合は、これは医療ミスではないかと、疑心暗鬼になり、医療訴訟が増加し、委縮医療になる傾向にある。


   日本の医療レベルは世界一であり、他国では及びもつかない高度かつ先進的医療が、ほぼ等しく国民に提供されているが、日本国民はそれを十分理解していない。「医療費亡国論」の基本政策のもと、日本は低医療費政策が継続されているが、国民の期待は大きくなるばかの中、医療者の負担は過度に増加し、米国の1/16の少ない人数で多くの患者を診て夜も寝ない生活を送っているのである。

  
  これらの状況を打開するには、患者にとって必要な情報は患者が持つか、いつでも見れる体制の確立が急務であると考える。十分な情報開示の元、それが患者にとって嬉しくない情報であろうとも、患者が自分の病状を正しく理解し、それをサポートする医療体制が確立できれば、患者の医療不信も軽減するであろうし、委縮医療も無くなるに違いないと考える。

                       過剰診療が減れば、医療費10兆円浮く計算

  患者が自分の医療情報を何時でも見れる体制確立の目的で、2010729日に「どこでもマイカルテ研究会」がスタートした。基本方針は以下の2点である。患者にとって必要な情報を患者の携帯電話の中に取り込み、どこの診療所などでも利用できるようにすること。もう一つは、患者の全情報を患者の了解の下にクラウドに挙げて、診療所等の枠を超えて一患者の医療情報として統一する、そしてその医療情報を患者が了解した第三者が閲覧できるようにすることである。これにより同じ検査が繰り返し行われる重複診療が避けられ、複数の医療機関から診療内容をチェック出来ることになり、過剰診療の防止が期待される。現在、重複診療と過剰診療が2-3割あるとすると、35兆の医療費から10兆円が浮くことになる。これらで低医療費政策を改め、病院での正規雇用労働者を増員し、クラウド化IT化を推進して病病、病診連携を強化すれば、さらに安全で質の高い医療を国民が受けられるようになり、さらには雇用創出と産業振興にもつながると考えての研究会立ち上げである

 一方国でも2010年5月に新たな国民主権の社会を確立するため「国民本位の電子行政の実現」,「地域の絆の再生」,「新市場の創出と国際展開」の3本の柱を掲げ、内閣官房IT推進室を中心に各省庁と連益して推進する体制ができた。その中で「地域の絆の再生」の医療分野の施策として「どこでもマイ病院構想」が示され、3本柱として患者の健康を護るためシームレスな地域連携医療の実現,レセプト情報などの活用による医療の効率化などを、目的とするものである。「どこでもマイカルテ研究会」で、内閣官房IT担当室野口参事官から、「どこでもマイ病院構想」について報告があり、私達が目指す「患者情報は患者のもの」と同じで方向性であることが示された。


                     携帯カルテ、QRコード変換を利用すれば
                  1800文字で必要最小限のサマリーを掲載可

  2011年11月までの4回の研究会が開催され、各現場からは、分断された患者医療情報を扱う問題点が病院、介護施設、患者の立場から報告された。また、モバイルを用いた医療情報の有効利用について、モバイルへのQR変換コードでの取り込みや、赤外線通信を用いた取り込みなどが報告された。QRコードで読み取る場合は1800文字程度なので、その中で必要十分な情報は何かが議論された。最新の検査データー、投薬データー、JPEGにしたキー画像、要領よく書かれたサマリーがあれば良いとの結論であった。また各電子カルテベンダーの情報共有により、電子カルテが相互利用できるような仕組みの必要性も述べられた。また、第3回、4回研究会では東日本大震災による沿岸地域の医療施設の壊滅的被害の状況、津波により医療情報のすべてを失ったを与えことから、病院に情報を置かないでクラウド化する必要性、事業体を越えた医療施設の連携と情報共有の体制が必要との認識が示された。クラウドに挙げられた患者情報を連結して一人の患者情報とするには、他先進国で導入されている「国民総背番号」が必須であり、昨年11月21日の第4回研究会では現在議論されている税と社会保障の一体改革の基本をなす、社会保障番号制度(マイナンバー)の現状と医療情報ネットワークとの連携について浅岡内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐から説明があった。

  「どこでもマイカルテ」の取り組みは第1回は50人程度の参加であったが、4回は200人を超える参加があり、医療機関、患者、関連企業の関心の高さが伺われた。国の薦める方向と我々の考える方向が一致しているので、現場の意向を研究会で十分詰めて、国の政策に反映させ、産業振興に寄与したいと考えている。皆さんの協力、ご意見を頂き、今こそ共に国の政策決定に関与しようではありませんか。