【気になる一作・本】当法人監事・増山氏の業績論文集「介護ロボット創世記」が発刊。高齢社会を支える介護ロボットの世界を科学的に考える一冊

人材不足が課題の介護現場

介護ロボットに関する実証実験の結果や考察をまとめた実績論文集「介護ロボット創世記ー高齢社会を支えるICT・ロボティクスへの取り組み」が発行されました。著者は、NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉で長年監事を務めてくださっている増山茂先生です。近年、科学的介護や生産性向上といった新しい取り組みが求められながらも、人材不足に悩まされている介護業界において、ITやロボットの活用が打開策として注目されています。見守りやコミュニケーションから、排せつコントロールや移乗、介助まで様々な場面で業務を手助けし、高齢者の支えとなりつつある介護ロボット。今回発刊された研究・実績論文集では、様々な機器を実際に取り入れてみた実例とその効果、考察、課題などについて丁寧にまとめられています。

増山茂先生は、呼吸器内科の医師としてご出身の千葉大学医学部での研究や、了徳寺大学学長、東京医科大病院渡航者医療センター兼任教授などを経て、現在は社会福祉法人東京聖新会の介護老人保健施設ハートフル田無の施設長を務めています。登山や山スキーにも精通し、ヒマラヤやアンデスの山々を制覇、“山の医師”として東日本大震災の時はいち早く避難所支援にも行かれました。その後、高齢者医療と介護、ICTやAI、ロボットの活用での研究にも取り組んでおられます。「介護ロボット創世記」は、東京聖新会理事で特別養護老人ホームフローラ田無施設長・老健ハートフル田無副施設長の尾林和子氏、アイルランド国立大学ダブリン校社会科学・法学部准教授の小舘尚文氏との共著。

介護職員の負担軽減、やりがいにもつながる

実績集では、12の論文を取り上げ、実際の英文論文のほかそれぞれに日本語による要旨と解題も掲載されており、ポイントが理解しやすい内容となっています。コミュニケーションロボットの導入が認知症高齢者にどのような効果があるのか、施設内で取り入れることで介護職員の負担がどれくらい軽減されるのか、特に夜勤時間帯での導入の効果などがデータとともに分析されています。いわゆるかたくて冷たいロボットのイメージを超え、高齢者にも親しみやすいように縫いぐるみ仕様に工夫されたロボットの活用など新しい視点や工夫についても検証しています。また、コロナ禍で接触を控えざるを得ない状況でのロボット活用の効果と意義にも触れています。

高齢者の命の安全を守りながら、職員が余裕ややりがいを持って介護業務を行うことができる環境をいかに整えるか。これは、医療・介護の分野において、持続可能にするために向き合っていかなければいけない大きな課題です。この一冊に盛り込まれた研究や実績、試行錯誤の数々が、この課題を皆で考えていくきっかけになるのではないでしょうか。