【Dr.竜が深掘り!読み物編】第二弾vol.1 新型コロナウイルスと肺サーファクタント―動画対談の読み物にしました

【Dr.竜が深掘り! 千葉発 令和のがん医療】
第二弾vol.1 読み物編
新型コロナウイルスと肺サーファクタント
高野 英行氏(千葉県がんセンター診療部長/画像診断部医師)
竜 崇正氏(NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長)

竜:今日は私たちNPOの仲間で、創立メンバーでもある高野英行先生をお迎えして、今一番関心のある新型コロナ感染症に関する話をまずお聞きしたいと思います。まず、今は旧千葉県がんセンターの建物を使って感染者を入院させているという状況ですよね。高野先生は実際に患者さんを診ていますか?

高野:私は直接診ていないですが、カルテはチェックしていますし、画像はすべて見ています。私は実はホテル療養に関わっていまして、どういう方がホテルに居て、その中でどういう方が悪くなって入院してくるのかを見ています。第三波から見ています。第3波と比べても、やはり最近は若い人が急に悪くなっていますね。

若い世代の感染が増加

竜:私たち浦安ふじみクリニックでは1年以上前から発熱外来をやっていて、コロナの患者さんも診ています。だいたい6割が20 代、30 代の人です。それで70代以上の人はいなくて。年寄りはだいたい引きこもって、外に出ない。若い人が多いということです。今は千葉でも入院できない状況で、自宅待機とか、ホテル待機とか。そうなると、医療の手を離れて、保健所管轄になりますね。そういう中で、高野先生が画像を見てチェックしていただいているのは非常に心強い。保健所の人は普段は患者さんを診ていないし、いろんなクラスターを追いかけるのが精一杯になっている中で、先生が画像をチェックしてくださっているというのは非常にありがたいと思います。
画像を見て何か特徴というのはありますか。

高野:普通のインフルエンザでは、肺炎というのは実はあまり多くないのですが、新型コロナは間質性の陰影がすごく強くて、つまり、間質性肺炎でありながら気道も閉じてしまうような印象を受けています。

竜:そうすると、余計死に至るような呼吸不全になりやすいということですか。

重症化、気管支が閉じて急死するケースも

高野:そうですね。急激に起きてしまうといきなり気道がつまってしまう。気管支が閉塞してしまうようなことが起きて、急死するのではないかと思われます。

竜:巷ではただの風邪、ただの風邪に毛が生えた程度という意見もありますが、そうじゃなくて、画像から見たらかなり器質化してしまっていて、風邪から気管支炎に移行するレベルとは違う重大な変化が起きているということですね。

高野:SARS の時に言われていたような新型コロナウイルス感染症の画像を見てもやはり間質性変化が強くて。文献で見ているとあまり気づかなかったのですが、実際の患者さんの画像を見てみると急激に気道が閉塞してしまうような変化がみられる。

竜:特徴的には、擦りガラス状の陰影と言われていますが、それよりもっとひどいわけですね。

高野:初期に診断する時には擦りガラス状レベルなんです。肺胞よりもうちょっと広がっている程度。最初は、2~3センチぐらいの淡い影になっている。そのうちもっと濃いベタっとした影になる。その後すぐに胸水が出現してきてしまう。免疫暴走状態になっているのだと思います。

新型コロナの治療法について

竜:治療といっても、まだ確実な治療薬がない状態ですね。まず、新型コロナに感染していると分かった場合は、症状に合わせてカロナールを服用させたり、ちょっとしたステロイドを投与しているのだと思いますが、画像を見た時点で「これは呼吸困難がなくてもステイロイド投与した方がいい」などの判断をするのですか。

高野:その人の症状も判断材料にします。例えば高熱が出ているとか。免疫が強く働き過ぎて、若い人でももう水も飲めないという場合もあるので、それを抑えるという意味の治療でステロイドをやっています。

竜:あとは、今は認可されているものではレムデシベルなどがありますが。一定の効果、症状を改善するという意味で、使われているのですか。

高野:重症化する手前で、やるという形で使っています。

竜:アビガンは使っていますか?

高野:使っています。

竜:吸入薬のオルベスコトは?

高野:デキサメタゾンを使う方が多いですね。

竜:そういう先生のCT の所見からいっても、早めのステロイドは有効そうな気がしますね。

高野:新型コロナの治療法についてですが、今回、いろんな文献みて、私も論文を書きましたけれども、肺サーファクタントが減っているのではないかと思うわけです。

竜:先生の論文で、ムコソルバンがいいというのを読んだのですが、「肺サーファクタント」に注目したのはどのような経緯からですか。

新型コロナと肺サーファクタントの関係に注目

高野:一番初めにこれは確実ではないかと思ったのは、BBC 放送で、イギリスの医師が自分がコロナになったと。その時に、肺が開くように自分で陽圧管理をして、それを繰り返して、その後なるべく痰を出して、うつ伏せになると、症状が楽になるというのを昨年2、3月の頃に見た。

竜:BBC 放送ですか?

高野:さかんに放送をやっていた。これは肺サーファクタントが関係しているのではないかと思った。なぜかというと、私はもともと小児放射線をやっていた。サーファクタントで肺が開くというのを新生児で見ていた。新生児というか未熟児ですね。呼吸機能がまだ十分に育っていないような子供が、最初の呼吸がうまくいかないと肺が潰れたままになってしまうので、肺サーファクタントを補充するという方法がある。その時は、基本的に補充がうまくいかなかったところの肺が潰れていたりとか、診断していた。

肺サーファクタントとは?―肺の界面活性剤

竜:肺サーファクタントとは何ですか?

高野:肺の界面活性剤ですね。

竜:それが足りないと肺胞が開かないんですね。

高野:それが未熟児では、肺サーファクタントが少ない。だから、肺が潰れてしまう。生まれて一番最初に「おぎゃー」というのがうまくいかないので、その時に肺サーファクタントを入れると、肺全体の肺胞が開くようになる。

竜:そういう研究をされていたんですね。

高野:私がちょうどサーファクタントを使い始めてちょっとしたところで、小児放射線をずっとやっていたので、そのころから、使っていました。

竜:一般的に臨床でも応用されていたんですね。

高野:呼吸不全の中でも、いわゆるRDS(新生児呼吸窮迫症候群)というのがある。それのARDS(急性呼吸窮迫症候群)というアダルトタイプがある。そういうのは免疫がおかしかったりする人がなる。それは、感染症が関係していて、肺サーファクタントが足りないのではないかという気がしていた。肺サーファクタントの補充療法もあることはあるが、なかなか成功していなかった。今回のコロナに関しては、閉じているところにものを流すというのは結構難しいので、補充でやるのは難しい。だから、体の方で肺サーファクタントを増やす方法がいいのではないか。だから、ムコソルバンなどはいいのではないか。自分で肺サーファクタントを増やすわけですよね。

竜:そうなんですか。

高野:補充療法というのは、実際のエアロゾルなどにして肺に送り込むわけですが、閉じているところにいきにくい。開いているところにばかり行ってしまう。

竜:肺サーファクタントをエアロゾルにして送り込むよりは、薬を飲んで血中から肺サーファクタントを増やすという考え方ですね。その効果があるのはムコソルバンですか。

肺サーファクタントを増やす去痰剤、ムコソルバンに着目

高野:肺サーファクタントを増やすムコソルバンなどを調べてみると、市中の風邪に対して、ムコソルバンと他の去痰剤を比べてみると、ムコソルバンの方が市中の風邪が少なくなるという臨床研究もなされている。それに関しては、PCRも今みたいに簡単にできるわけでは無かったので、何が原因か分からないですが、基本的に肺サーファクタントを作り出すような去痰剤の方が風邪を抑制するという臨床研究がなされている。

竜:未熟児の肺の要素と、一般的な風邪の状態の時にムコソルバンとムコダインの比較研究をしたら、肺サーファクタンを増やすのにムコソルバンが有効だという治験が先生の中ではあったわけですね。コロナの前から。

高野:新型コロナが蔓延するまでは私もそこまでは確信はなかった。調べてみると、そうではないかなと確信した。

竜:コロナも見て、画像も見て、患者さんも診ていると、これがコロナによる呼吸不全に有効なのではないかという考えに至ったわけですね。

高野:あと、昨年3月頃でしたので、まだ新型コロナの病理学的所見報告は、中国からの2例か3例しか解剖例がなかった。画像を良く見ると、気道に何か良く分からないけれども、スティッキー、粘っこいものが詰まっているという所見だった。中国の解剖例でもそのような報告があった。論文にそういう一文があた。これはやはり、気道が閉じてしまって、突然死したのだと。免疫暴走という意見あるけれども、それでは死ぬまである程度時間がかかる。しかし、コロナは突然死するので、突然気道が閉じてしまうということが急死の大きな原因だと思われる。実はSARS の時に、COPD の人が実はあまり悪化しないと言われた。それは、普段から去痰剤を使っているからじゃないかと思われる。中国からの報で、COPDの人があまり死ななくて、パラドックスと言われていた。実際、中国の新型コロナを扱っているところでは、ムコソルバン系の薬をどんどん使っている。治療マニュアルにも書いてある。

竜:パラドックスだね。COPD という感染したら真っ先に死にそうな人が結構生き残っていて、元気な人が先に死んでいる。調べてみたら、去痰剤を日常的に飲んでいたら、重症化しない。そこに行きついたわけですね。

高野:中国の治療マニュアルに、どれを見ても、ムコソルバン系の薬が含まれている。

竜:これはムコソルバン系の薬が有効かもしれないということで、先生が今回の新型コロナでもムコソルバンが有効かもしれないと考えたわけですね。肺サーファクタントの有無と感染力への影響についての研究も。

肺

肺サーファクタントの有無と感染力への影響についての研究も

高野:そうですね。今は、細胞レベルでサーファクタントを入れて、サーファクタントを入れたものと入れないもので、感染力がどう変わるかを今、帯広畜産大学と共同研究しています。

竜:その研究に我々のNPOも補助させていただているわけですけれども。効果に期待したいところですね。ムコソルバンは、我々も日常的に使っている薬ですね。風邪かコロナ感染症か分からない時に、最初から抗炎症剤とムコソルバンを使えば、対処療法的にも根本的にも効果があるということですね。

高野:そういうことです。実は、ムコソルバン系の薬はアメリカでは処方箋がないと買えない薬です。日本では、一般薬化して買うことができる。アメリカではムコソルバン系は買うことができない。一般の人が飲んでいる風邪薬には、ムコソルバン系の薬が入っていない。私たち日本で入手できる薬には、ムコソルバン系が入っている。

竜:そうすると、日本人のコロナ死亡率が少ないのは、そういったことも関係しているのでしょうか。

高野:もしかしたら、一つの要因になっている可能性はあります。

竜:非常に面白い話でした。先生の研究は論文化されていますよね。その論文は非常に注目されています。ムコソルバンという我々が一般薬として使っている薬が、新型コロナの死亡率軽減に役に立つかもしれないし、副作用もなく使えるので、使いやすいですね。

高野:去痰剤として、普段から良く使われているので、使いやすいと思います。

竜:直接コロナウイルスの膜を壊してしまうということはないんですか。

肺サーファクタントの作用

高野:その辺がどうなのか、注目しています。実験系でみると、生体の中でどのくらいの濃度で膜を壊すのかのを調べるのが難しいのです膜を壊すのは、ミセルという状態なんですよ。ミセルは石けんが水に溶ける時に小さな粒になる。その時に脂肪を取り込んで、水に溶かしてしまうという効果がある。肺サーファクタントはおもしい作用があって、ベシクルと
いわれている作用がある。大きなものになる。それは、ドラックデリバリーでも使われるが、ある程度小さな粒の中に入れて、いろんなところに運んだり、細胞膜につきやすい状態になる。

一つの考え方は、肺サーファクタントのミセル化というので、石けんみたいな感じで壊すということ、もう一つはものを運ぶような感じのこと。それによって、肺の表面に白血球の一種のマクロファージというのがあるが、そこが取り込みやすくするという考え方がある。マクロファージが取り込みやすくなると、そこでいわゆる初期免疫が働く。抗体とかができる前の初期免疫が働く。サーファクタントがなくなると、マクロファージが働きにくくなる。その次の抗体などの免疫がばんばん働く感じになってしまう。もしかしたら、そこでマクロファージの動きを止めてしまう。サーファクタント、今回の新型コロナはACE2 というレセプター(受容体)でくっつくんですが、そのレセプターがサーファクタントをコトロールしている。サーファクタントをコントロールしているところを止めてしまうと、肺胞のところでマクロファージが動けなくなってしまう。たぶんそれによって、結局、初期免疫が働かないので二次的な免疫が急激に働く感じになっているのかもしれないですね。そうすると、いわゆる免疫暴走につながる可能性もあるということですね。

竜:肺サーファクタントに注目して分かりやすくお話いただきました。
今後の研究、またこういうウイルスの感染症は次々と起こるでしょうから、いろんな意味で今後につながる研究だと思いますので、これからも期待しております。