【Dr.竜が深掘り!読み物編】第一弾プロローグ 千葉県がんセンターの今。飯笹病院長と語る「ここがすごい!千葉県がんセンターの新機能」動画対談を読み物にしました

【Dr.竜が深掘り!千葉発 令和のがん医療】
第一弾 対談読み物編
千葉県がんセンターの今
「ここがすごい!千葉県がんセンターの新機能」
飯笹 俊彦(千葉県がんセンター病院長)
竜 崇正(NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長)

千葉県がんセンターの飯笹俊彦病院長と、NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉の竜崇正理事長による対談をお送りします。千葉県がんセンターは2020年10月に新病院がオープンしました。千葉県の最先端のがん医療をつかさどる拠点として、その機能がますます期待されています。患者さんやご家族にとって安心・安全、希望の持てるがん医療の現在と未来についてとことんお話いただきたいと思います。


飯笹千葉県がんセンター病院長(右)と竜理事長(左)

竜先生:
千葉県がんセンターは日本では3番目に古いがんセンターとして設立されまして、創立が1972年で48年になります。最も古い建物のがんセンターになったわけですね。いろいろやりたいこともやれないし、機能不全になってところもあって新病院を建てた。新病院ができて、これからどのようなことを目指していかれますか。

飯笹先生:
旧病院のことから少し話をしますと、竜先生もセンター長でいらしてよくご存じだと思いますが、旧病院は機能性に優れた病院で、建築界では病院建築として評判が良かったそうです。そういったことで、普通は30年で立て直す病院が多いのですが、うちの病院は48年続きました。非常に拡張性に優れていると言われて、千葉大学工学部の名誉教授からもお褒めいただいた。さすがに老朽化しまして、東日本大震災の時にもかなりダメージを受けました。さすがに建て直さなければいけないとなったんです。

竜先生:
台風で雨漏りもひどかったですしね。10年ほど前、IT化して完全電子化する時が建て替えの一つのタイミングでしたが、病院も広かったですし、いろいろな機械が入れられたんですよね。それでも、雨漏りするということになると医療機器にも影響が出る。新しいがん医療、県民によりよいがん医療を提供するためにどうしても機構改革も含めた新しい病院が必要だったということですね。

1972年竣工の旧千葉県がんセンター。機能的な建築として評価も高かった。

がん医療の均てん化から個別化医療へ
高度化し、患者さんの選択肢を増やす

飯笹先生:
そうなんです。新しい病院の一つのコンセプトとしては、都道府県のがん連携拠点病院としてがん医療の均てん化を目指しているわけですが、均てん化ばかりではなくて、「個別化」という方向も考えています。患者さんの選択肢を増やす。高度ながん医療も目指す。これが一番大きなコンセプトです。基本理念にも掲げていますけれども、「がん患者さんにやさしい治療法」を積極的に取り入れています。そんなところが新しく最大のコンセプトかと思います。

新千葉県がんセンター。2020年10月竣工。

新病院の一階ロビー

竜先生:
目玉としてこれを整備したというのはどういうところですか。

手術・抗がん剤治療・放射線治療に新しい機器を導入
ロボット手術で安全で丁寧な手術
患者さんの身体への負担も軽減

飯笹先生:
がんの治療の大きな柱としては手術と抗がん剤治療と、放射線治療があります。それぞれの分野で新しい機械を更新しました。手術の分野では、今注目されているロボット手術ですね。一台は旧病院時代から持っていましたが、新病院に来てもう一台購入しました。消化器外科、呼吸器外科、婦人科の領域のがん手術でもロボット手術をできるようにしました。千葉県がんセンターの泌尿器科は、全国で有数の泌尿器科でして、前立腺がんの手術ではロボット手術は進めてきましたが、2台体制にしてさらにロボット手術に力を入れていくことにしました。

ロボット手術機器「ダ・ビンチ」

化学療法、抗がん剤治療では、仕事をしながらの治療を希望する患者さんも多いので、外来化学療法を充実させました。外来化学療法室を、「がん薬物療法センター」と名前をつけまして、ベッド数も50数床まで増やして、若い方、抗がん剤治療を外来で受けたい方のニーズにこたえようということでやっています。放射線治療も、身体の広範囲にわたって放射線をかけるということが多かったのですが、ピンポイントで放射線をかけられるIMRTという機械を導入して、放射施治療も充実させていこうと思っています。

がん薬物療法センター

竜先生:
3本の柱をより充実させようということですね。ロボット手術はダビンチという機械で、非常に細かい手技を安定してできるということですね。千葉県がんセンターは、日本有数の前立腺がんの治療を行っているということで、まずはそこに応用されたのですね。それで非常に良かったので、消化器や呼吸器、婦人科などについてもこれから応用していこうということですね。

飯笹先生:
ロボット手術機器ダビンチは、非常に細かな動きがしやすいということ、深いところのなかなか見辛いところをカメラで見ることができること、それから傷が小さいということが、患者さんにとってすごく楽になります。退院の日数も半分くらいに減ります。

竜先生:
私は開腹式で手術をしていましたので、肝臓、胆管、膵管などの臓器は細かくて縫うのが非常に難しかった。それがちょっと圧がかかると裂けてしまうこともあった。ダビンチ、ロボットでやれば、安定して確実に縫うことができるということで、安全な手術につながるのかなと期待しています。

飯笹先生:
そうですね。特に深くて狭いところは、人間の手が大きい場合は狭いところで細かく縫うというのは難しかったんです。ダビンチを使えば、奥の深くて狭いところ、内視鏡も奥まで届きますので縫うことができるようになりました。

竜先生:
手術も安全で、患者さんの身体にやさしい方向にどんどん進むということですね。

続いて、温熱療法(ハイパーサーミア)が今回導入されたと聞きました。これはどのような治療法ですか。

ハイパーサーミア(温熱療法)を導入
抗がん剤治療との組み合わせで効果発揮

飯笹先生:
ハイパーサーミアというのは、実は30年近く前から始まった治療です。機械が更新されていて、最近は電磁波を使ったものが出てきました。患者さんへの効果は認められているのですが、これからもっと研究を進めていかなければいけない分野です。化学療法と合わせることで効果が出ることが分かってきました。実は、温熱療法は県民の要望として「ぜひ取り組んでほしい」と上がってきた治療法の一つです。関東圏の公立病院ではまだやっているところが少ないのも現実です。非常に難しい化学療法との組み合わせは、民間病院ではできないこともあるので、そういったことも千葉県がんセンターでは可能になりますから、メリットを感じ始めています。

温熱療法(ハイパーサーミア)の機器

竜先生:
40年くらい前、私が大学にいた頃に、温熱療法を膵がんなどに応用したこともある。実験的にやる分にはいいのだけれども、実際は局所がなかなか温まらなかった。おなかの中に水を入れて温めたりしていました。でも、局所がなかなか効果的に温まらなかったということがある。でも、電磁波などを使えば局所を効果的に温めて、抗がん剤の効果が増すということですね。

飯笹先生:
これからまだまだ調べていかなければいけないことはたくさんあります。期待される部分も大きいと思います。

竜先生:
これからがんセンターを上げて実証をしていこうということですね。

飯笹先生:
治療にはメリットとデメリットが必ずある。一つ一つ課題をクリアしていきたいです。

竜先生:
今後も温熱療法の効果に期待したいですね。あと、新しい治療に関しては、免疫チェックポイント阻害薬について、いろいろな臓器で行われていると思いますがいかがでしょうか。

免疫チェックポイント阻害薬
効果が上がっている

飯笹先生:
当初は悪性黒色腫から始まって、それが肺がんに適用されました。今かなりの臓器で、免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになってきています。治験で進んでいるところが大きいけれども、効果はかなり上がっており、これから期待できます。

竜先生:
これはオプチーボから始まっていると思いますが、日本では千葉県がんセンターを中心に治験という形で科学的に実証して効果を上げているというやり方ですね。特に肺がんですさまじい効果がありますね。

飯笹先生:
肺がんはあまりたちが良くないがんで、10数年前までは手術でがんを取り除かなければいけないがんでした。分子標的薬「イレッサ」が登場したのが20年ほど前に出て、そして免疫チェックポイント阻害薬ということでどんどん進化し良くなっています。生存率を考えても、1、2年と言われていたのが、その倍2年,3年,4年という話もできるようになり、5年生存率の話ができるところまで来ている。

竜先生:
飯笹先生は肺がん専門で、私はもう一つの治らないがん・肝胆膵がんが専門ですけれども。肺がんもなったら終わり…と言われていたのが、最近では終わりではないですね。治療法が選べて、さらに患者さんも充実した生活を送ることができるようになったんですね。

ピンポイントで放射線を照射するIMRT

竜先生:
続いてIMRTもコンピューターを制御して、局所に集中的に放射線を当てることができるのですね。そして、周りの臓器にはほとんど障害を与えないという画期的な治療法ですね。IMRTはそこまで高い値段ではなく、患者さんにもメリットもあるということですね。

飯笹先生:
重粒子線やガンマナイフなどは、非常に限られた施設でしか使うことができなかった。千葉県がんセンターでは、IMRTを2台、3台と複数台持っています。待ち時間もなく利用できるようになった。ピンポイントで放射線を照射できるようになっているので、再発した場合にも放射線を当てることができる。昔は、放射線は1回かけたら、もうそれ以上はできないということだった。局所に充てることができるようになり、前回は放射線を当てなかった場所に再発した場合はこの治療法をつかうことができるということになります。

竜先生:
放射線治療の常識、一度放射線かけたら、もう使えないという常識が変わってきていることですね。
前立腺がんなどいわゆる放射線が効かない腺がん、大腸がんなどの臓器はどうでしょうか。

飯笹先生:
まだチャレンジの部分ではありますが、IMRTはピンポイントで照射しますので、がんの周りには影響なく、がんのみに放射線を当てることができます。がん自体への照射量を増やすこともできる。効果はそれなりに上がっていると聞いています。今、IMRTは2台あり、もうすぐ3台目をそろえます。

竜先生:
それは期待できますね。
私は限界まで手術でやってきたのですが、どうしても抗がん剤や放射線の助けを借りなければ患者さんは治せない。手術、抗がん剤、放射線治療という3本の柱をうまく使えば、患者さんが希望を持てるようながん医療ができるということですね。

がんゲノム医療の拠点病院に指定
遺伝子レベルで治療法を探す
患者さんの生きる希望につなげる

竜先生:
千葉県がんセンターとしては、がんゲノム医療にも取り組んでいますね。

飯笹先生:
がんゲノム医療はここ10年で急激に進歩してきました。がんの個別化治療で、がんの性質を遺伝子レベルで調べて、それに合った薬を探すという取り組みです。千葉県がんセンターで研究所も持っている。そちらで勉強された横井先生が詳しく分かっておられるので、ゲノム医療の拠点病院はなかなか取れない資格でしたが、今回それを千葉県がんセンターが取得できました。

竜先生:
これは遺伝子パネル検査というがんの検体からいろいろな遺伝子を検索してその中で遺伝子異常があるものに対して、新しい治療ができないかを探す試みですね。国立がんセンターと一体となって、さらにきめ細かくやっていく病院として、千葉県がんセンターがゲノム医療の拠点病院にも指定されたということですね。これで治療法がないと言われた患者さんでも遺伝子検査によって新しい治療法が見つかるかもしれないということですね。本当に希望が持てることだと思います。

あとは、がんの治療だけでなく、患者さんの心に寄り添うということも大事にしていますね。

こころに寄り添う患者総合支援センター
ワンストップで患者さんの相談を受け付ける

飯笹先生:
今までの病院では、診察を受けた後の患者の会計や相談など、別々の場所で行っていました。それを一つの場所に統合しました。相談も会計も予約を取るなどの患者サービスを一か所に集めた。患者総合支援センターとしました。それによって、患者さんが診療が終わった後に立ち寄ることができます。ワンストップでできる体制にしました。

患者相談支援センター

竜先生:
患者図書室も充実していますね。

飯笹先生:
患者さんから、がんについて調べたりしたいというニーズがあります。患者図書室という形で、調べたり休憩したり、学校の図書館のような空間を作りました。専門の司書もいますので、おすすめの本を紹介してもらうこともできます。

竜先生:
患者さんにとっては、不安は尽きません。本を調べたりできる場は非常にありがたいですね。

患者図書室「にとな文庫」

快適な入院環境
緩和ケア病棟も大幅に増床

竜先生:
新しいがんセンターは全体的に明るくていい雰囲気になったなと思いますが、入院設備の居住性など全体的に評判はいかがですか。

飯笹先生:
前に比べれば快適になったとの声がある。個室にはシャワー、トイレもついています。

病室からは見晴らしのよい景色を眺めることができる

個室・シャワー、トイレも完備。

竜先生:
前はトイレが狭いと言われていましたしね。点滴しながらトイレに行くということも楽になりました。

緩和ケアはいかがですか。

飯笹先生:
緩和ケアは、今回の新病院の大きな特徴の一つだと思います。緩和病棟を今まで28床だったのを53床まで増やした。これはがんセンターという病院では最大の数だと思う。緩和医療も今在宅へという流れもあるけれども、これから一人で過ごされる方も増える。一人暮らしで、在宅で治療を続けていくというのも負担がかかります。緩和病棟はニーズがあると思われる。

竜先生:どんな状態となっても千葉県がんセンターとしては、患者さんを受け入れていくという方針ですよね。今日は貴重なお話を伺えて本当に良かったです。ありがとうございました。