【Dr.竜が深掘り!読み物編】第三弾 がんの薬物療法―動画対談を読み物にしました

【Dr.竜が深掘り! 千葉発 令和のがん医療】
第三弾 読み物編
がんの薬物療法
副作用を抑える対策充実、遺伝子検査で“自分に効く薬”を見つける
辻村 秀樹(千葉県がんセンター外来化学療法科部長)
竜 崇正(NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長)

竜先生)
今日のゲストは千葉県がんセンターの辻村秀樹先生です。今、抗がん剤治療とか化学療法と言わなくなってきて、薬物療法というようになってきました。抗がん剤治療は私の時代は、入院で行われていました。それが、今は安全にほとんどの治療が外来で行われています。その外来薬物療法科部長の辻村先生です。薬物療法のいろいろなことをお聞きしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

辻村先生)
よろしくお願いいたします。

竜先生)
ちなみに、私たちは今、マスクしていません。我々は、医療従事者として常に最前線にいます。すでに新型コロナのワクチンも打っております。そして、私たちの周りにはこの数カ月、だれもコロナ感染者がいませんので、私たちも感染はしていないということになります。マスクをしていると声がこもってしまい、声も良く聞こえないということでマスクなしで進めたいと思います。

薬物療法受ける方の7割が通院で治療

竜先生)
今、薬物療法を受ける方何割ぐらいが外来で治療を行っていますか?

辻村先生)
だいたい70%以上の方が外来で治療を受けられています。

竜先生)
世の中には、まだ「化学療法、薬物療法は副作用が強いから、とてもそんなものやるもんじゃない」というふうに思っている人もいるんですね。それが今や入院も必要なくて、外来で仕事しながら治療できるようになった。薬物療法を外来でできるようになった一番の要因は何ですか。

辻村先生)
まず、外来でできるようになった理由として、薬の効果が表れるようになったということなんですね。竜先生が抗がん剤を扱っていた時代は、特に消化器は抗がん剤が効かなかったと思います。今は効果が出るようになってきました。つまり、すぐには具合が悪くならないので、今現在の日常生活だけでなく社会生活も維持できるようになった。これが一番の要因です。それから、もう一つは、こちらがもっと大きな理由かもしれませんが、薬の副作用を抑える支持療法がとても上手にできるようなったことがあります。

副作用を抑える対策が充実

竜先生)
そういう意味では、患者さんへの効果も見ながら、副作用対策もちゃんとできる、そういう場所として外来薬物療法が安定して進められるということが理由なんですね。

私の専門はすい臓がんです。私が現役でいた頃、十数年前ですが、一度すい臓がんになったら終わりの時代でした。確かに薬物療法やっても全然効かずに、苦しいだけで亡くなっていく方が多かったんでsね。今は、浦安市内のクリニックで働いているのですが、すい臓がんになっても皆さんお元気で結構大丈夫なんですね。薬物療法の効果がきちんと得られるようになったことは、非常に大きいと思います。

もっとも治療が進歩した病気はなんでしょうか。

竜先生

辻村先生

辻村先生)
ほとんどすべての領域で治療成績が伸びてはいます。どれが一番と言われても、挙げるのはなかなか難しいです…。もちろん、病気によっては、すごく長生きできるわけではない場合もあります。がんによって生存期間はだいぶ違うのですが、それぞれにおいて、治療成績は伸びているので、どれが一番伸びているかという順位付けはなかなか難しいですね。

竜先生)
私は肝胆膵の領域が専門で、“治らないがん”を一生懸命に治そうとしたのですが、今は肝胆膵の領域もだいぶ良くなってきたと思うのです。最も治りにくかった病気は肺がんだと思うのですが、肺がんの領域はどうですか。

辻村先生)
肺がんは、新しい薬がたくさん出てきました。さらに、肺がんははいわゆる個別化医療なんですね。一言で肺がんといっても、以前は小細胞肺がんと非小細胞肺がんの二つぐらいのくくりしかなかったのですが、今はそれぞれにおいて遺伝子検査をやるようになったんですよ。それぞれの遺伝子の異常の出方によって、選ぶ薬が変わってきて、患者さんに最も合った治療を選べるようになっているんですね。そのことも、治療成績が伸びている理由だと思います。

竜先生)
もっとも大きく変わった点としては、その患者さんの持っている特徴に合わせられるようになったことなんですね。遺伝子検査をして、遺伝子変異に合わせた治療薬が選べるような時代になった。それが一番大きいように思いますね。そうしますと、昔は抗がん剤、化学療法といって、代謝の強いところに効かせて、その勢いを弱める。そうしますと、代謝の強い血液や白血球が非常に少なくなってきて非常に具合が悪くなってしまいました。今は、分子標的薬や遺伝子変異に合わせた治療薬、さらには免疫チェックポイント阻害薬が一般薬としてかなり使われるようになりましたね。

「薬物療法」とは…化学療法、分子標的薬、免疫療法、ホルモン療法を合わせた総称

辻村先生)
竜先生も先ほどから、「薬物用法」という言葉を盛んに使っておられますが、おそらくまだ一般的な言葉ではないかもしれないですね。もともと「化学療法」と言っていましたが、これは細胞障害薬といってがん細胞が分裂する時の遺伝子を標的にする薬でした。ですから、髪の毛が抜けたり、血液が減る、気持ちが悪くなるといったことが副作用として起きていました。それだけではなくて、がんが増えたり、増殖するのに必要な分子を突き止めて、そこのところを潰しにかかる、いわゆる分子標的薬という薬ですね。あとは、免疫療法ですね。もともと私たちの身体の中には、がんと闘う免疫を持っている。本来持っているが、その免疫を落としてしまう仕組みが分かってきた。そのブレーキをかける分子を潰して、免疫を働かせるようにします。いわゆる免疫療法ができるようになってきました。これで、もともとの化学療法、分子標的薬、免疫療法。もう一つ加えるとホルモン療法。全部合わせて「薬物療法」と呼んでいます。治療法が非常に大きく広がってきている。その象徴が「薬物療法」という言葉なのではないかと思います。

竜先生)
なるほど。私はつい抗がん剤治療、化学療法とか言ってしまう。分子標的薬のところから分からなくなってしまった…。以前は、胃がんに適用の薬剤、大腸がんに効く薬という分け方だったのが、今は臓器を超え、遺伝子変異に応じた治療ということで、治療法を選択できるのでしょうね。

辻村先生)
おっしゃる通りですね。例えば、乳がんの領域で進んだ治療薬にHER2というたんぱく質に対する治療薬があります。HER2は、がん細胞の表面にあって、がんの増殖を刺激する分子。乳がんの世界では「トラスツズマブ」などHER2の働きを落とす薬が発達しました。胃がんにもHER2というたんぱく質が発現している場合があります。そそうすると、HER2に対する治療薬はなにも乳がんだけでなく、胃がんにも使えることになります。そうなると、「この薬は、このがんに効く」というだけでなく、臓器を超えて幅広い範囲で使えるようになります。そんな薬が増えています。

臓器を超え、幅広い範囲で使える薬も増えている

竜先生)これは驚いたことの一つです。HER2は乳がんの薬だよねぇ、と思っていました。乳がんだけではないんですね。胃がんに関しては、特にピロリ菌の感染が原因になっていることも指摘されていますね。ピロリ菌の除菌で、胃がんが減ってきている。減ってはきているけれども、まだまだ気が付いたら進行がんということも多いんですね。胃がんが減ってきて死亡率が下がっているけれども、油断していると進行した胃がんになっている。進行した胃がんになっても、そこから遺伝子検査をして分子標的薬を探せばいろんな意味で治療ができるということですね。

遺伝子検査で“自分に効く薬”を探す

竜先生)
あとは、肺がん。いろんな肺がんが出てきていますね。私の頃は、非小細胞がんと小細胞がんで、小細胞がんだったら終わりで、治療もできないかなというイメージでしたが、そのあたりはどんな感じになっていますか。

辻村先生)
小細胞がんは小細胞がんで、それに対する分子標的薬もできてきました。もともと、肺小細胞がんは化学療法が効きやすい。薬の量を以前は加減しないといけなかったんです。今は、白血球が減った場合には、その白血球を増やす薬なども開発されており、有効な薬を十分量使えるようになったので、かなり制御できるようになってはきています。

竜先生)
肺小細胞がんになったら終わりという時代ではなくて、それぞれに合わせた治療ができるようになったわけですね。あと、一時期、「イレッサ」がけしからんと言って、イレッサの裁判もおこされたりしていまだにやっている人もいますね。イレッサに関してどうですか?

辻村先生)
イレッサも開発された当初、間質性肺炎といって、治らないくらいのひどい肺炎を起こしす方、命にかかわるような肺炎をおこしてしまう方が続出して大きな社会問題になりました。イレッサも効く方と効かない方といます。これを最初段階で判別できるようになりました。効かない方に命の危険をおかしてまで使うようなことはなくなったんです。あらかじめ選別できるようになってきました。

竜先生)
遺伝子の検査をして、陰性か陽性かで分かるようになったんですね。

辻村先生)
あとイレッサの第二世代、第三世代という同じ分子を標的にしていても、効果が高く毒性が低いものも開発されているので、そちらの方に移行したりもしています。

竜先生)
私が浦安のクリニックに移ったばかりの時に、イレッサが効くと言われている脳転移を伴うような肺がんの方がいらして、「どうしてもイレッサが恐ろしくて使いたくない」という患者さんがいました。少し水もたまっていたので痛くないように胸水を抜いて気を楽にしたら、私のことを信用してくれました。そして、私の方から「イレッサ、こんなに効く薬はないんだから」と説得してイレッサを投与しました。それで、見事に脳転移が消えた。すごく元気になられていました。分子標的薬の遺伝子変異に合わせた薬は、効くんだなと実感しました。でも、それがずっと効く訳ではなく、進行してしまうケースもあります。その場合は次の手はありますか?

辻村先生)
セカンドライン(二番目の治療、二次治療)、それがだめならサードライン(三次治療)がある。肺がんの場合、消化器がんの場合はガイドラインもあり、エビデンス(臨床試験で効果が実証されいてるという意味)に基づいた治療薬もありますので、最初の治療がだめだったらもうおしまいとは思わなくてもいいのではないかと思います。もちろん、病気によって、遺伝子変異の持ち方にもよるので、すべての患者さんにそれが適用できるわけではなのですが。そういう時代になっています。

竜先生)
今、千葉県がんセンターのホームページ見ても、一次医療だけでなくて、二次医療、三次医療までだいたい決まっていて、それが一般の方にも分かるように書かれている。そういうところまで来ましたね。特に外来で、安全に化学療法、薬物療法ができる時代になったというのは、薬が効くようになっただけでなく、いろんな意味での安全に行うシステムとか工夫も大きかったのではないかと思いますが
そのあたりはいかがでしょうか。

薬の副作用は自宅で起きる

辻村先生)
そこが千葉県がんセンターの自慢したい部分なんです。外来で治療を行う場合の副作用はご自宅で起こります。投与したその場で起こるわけではなく、数日後、一週間後、二週間後にご自宅で起きる。それを予測しなければならないんです。予測に基づいて、対策も事前に立てておかなければいけない。しかも、この予測の仕方も対策の仕方も、われわれスタッフの実力差が出てはいけないです。私たちはプロですが、プロの中でもまだトレーニング中の若い先生もおられますし、ベテランの先生もいます。でも、この差は絶対埋めなければいけない。ご自宅で何かあった場合にこの薬を飲んでくださいという支持療法、そういったところも全部標準化しています。この治療でこの副作用が出たらこの薬を処方しましょう、という組み合わせ・セットが作ってあり、電子カルテの中で簡単にそれが使えるようになっています。また、何といってもご自宅で起きる副作用は患者さんかご家族が発見するので、患者さんやご家族に良く治療のことを知ってていただきたいんですね。そのために、この時期にこんな症状が出る可能性がある、というカレンダーを作っています。「副作用カレンダー」と呼んでいるのですが、薬剤部の薬剤師さんが治療薬ごとに作りました。それを最初の治療の時にそれを渡しています。薬の副作用は出るのですが、それを最小限に食い止める工夫をしています。

薬物療法の副作用カレンダー

千葉県がんセンターオリジナル、治療薬ごとに作った「副作用カレンダー」
副作用を最小限に抑える工夫

竜先生)
私が千葉県がんセンター長をやっていた時に、化学療法の現場を見に行くと、ずっとため息ついてなかなか治療室に入っていかない患者さんがいらして、「これから先生に具合が悪いって言わなきゃならない。そんなことを言ったら先生に悪いし、治療やってもらえないのではないか」と話していました。そんな時、看護師さんや薬剤師さんには寄り添って話を聞いてほしい、「こんなことが大変」「こんなことが辛い」ということをドクターに伝えていったんですね。こんな辛いことは先生に言った方が良くなるし、その方が他の患者さんにもメリットになります。その積み重ねが電子カルテの中で標準化されていったのだなと思いました。最初に外来化学療法が立ち上がって、化学療法にシフトしていく時に、多くの看護師さんや薬剤師さんが患者さんの訴えを聞いて医師に伝えて、個人的な経験にするのではなくて、電子カルテの中で標準化して副作用対策を作っていった。今も、そのシステムがきちんと千葉県がんセンターの中でできているということなんだなと思いました。

薬剤師、看護師が拾い上げた患者さんの声をデータ化、副作用対策に活用

辻村先生)
先ほど薬剤師さんが頑張ったという話をしましたが、看護師さんの役割もものすごく大きい。外来で点滴を受ける。そこで点滴をしている間、しばらく時間を過ごすんですね。治療は一回だけでなく、繰り返し行われます。そうすると、患者さんが看護師さんと対話する時間が必ずできます。リピーターさんですので、だんだん顔見知りになってきて、何に苦しんでいるのか、何が辛いのかということを看護師さん方がうまく拾い上げてくれます。それは、その患者さんのために拾い上げるだけではなく、必ずデータ化します。データ化してこの治療をすると、患者さんはこんな辛い思いをする。そういうことが分かると、対策も立てやすくなります。そのような活動の積み重ねですね。

竜先生)
私、浦安の医師会でも活動しています。薬剤師会から講演を頼まれたことあって、薬剤師さんのこと全然知らなかったので、千葉県がんセンターの薬剤師さんにここで何やっているのか聞いてみたのですが、聞いて本当にびっくりした。この薬剤をやって何日後にはこんな症状が出ますからこうしましょうねというのがカレンダーになっていて、それを渡していたと分かったんですね。私現役の時、そんなこと全然知らなかったんです。現場ではそういう取り組みが行われていた。その積み重ねで、今安全に入院しなくても、化学療法が行われているんだなというのが分かりました。現場のスタッフ人の力はすごいなと分かりました。

今、入院してやらなければならないような治療はありますか?

辻村先生)
入院で行う場合は、一日だけでなく、数日間連続で行うような治療の場合ですね。これは血液のがん、消化器がん(食道癌、大腸がん、胃がん)、あるいは頭頚部がんなどに多いですね。毎日通うのは難しい場合も入院していただいています。後は、血液のがんでは白血球などが減ってしまうんですが、これはご自宅にいると感染などのリスクがあって危ないようであれば入院になります。あとは骨軟部(骨肉腫など)はやはり入院しての治療となります。

竜先生)
「外来に通うのは辛いから、入院させてください」という要望があった場合はどうしますか?

辻村先生)
患者さんによっては大丈夫です。状態、状況に応じて対応しています。ご自宅がとても遠くて、一回目で強い副作用が出てしまったというような場合には、入院していただきしっかり見ます。

竜先生)
今、化学療法がこんなに進歩したということで非常に安心しました。そして、辻村先生のにこやかな笑顔ですね。これも患者さんに安心を与えると思いますので、そういう雰囲気でこれからもご活躍ください。ありがとうございました。