【どこでもマイカルテ研究会】2010.9.30 第2回どこでもMYカルテ研究会 初めて行く病院も「かかりつけ医」に。医療のIT化を加速へ。医療、IT・通信業界の関係者130人が参加

患者さんが自分のカルテ情報を自分で管理

患者さんが自分のカルテ情報を自身で管理する新しい仕組みを検討する「どこでもMYカルテ研究会」の第2回の会合が2010年9月30日、東京都内で開かれました。医療分野でのIT化に向けて、患者さんが携帯電話などに入力された自分の診療データを持ち歩いて病院や診療所を行き来しやすくする個人レベルでのシステム作りと、病院や診療所、介護施設などで患者さんの情報を共有し、スムーズな診療を促す組織レベルでの基盤を整えることの2本立てで進めていくことを確認しました。

一方、インターネットを使った医療情報のやりとりが基本となるため、検査や投薬、画像データなどどの情報を患者さんや病院間でやり取りできるのか、だれもが使いやすい安価なシステムを構築できるのか、個人情報を安全に扱うにはどうするかなど導入に向けた課題も浮き彫りとなりました。

第2回「どこでもMYカルテ研究会」(後援:NPO法人医療構想・千葉、NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉)には、行政、医療、介護、患者会、IT関連企業、マスコミなどの関係者約130人が参加しました。今回は、政府の「IT戦略本部」が進める医療分野でのIT化の具体的なスケジュールを確認した上で、患者さんの医療情報を実際に扱う場合の問題点や、使いやすい技術的な仕組みについて検討しました。

内閣官房IT担当室参事官(医療分野)の野口聡さんは、医療分野IT戦略の柱の一つである「どこでもMY病院」構想について紹介しました。これは、患者さんにとって初めて受診に行く病院でも、過去にかかった病気や投薬情報などをインターネットを活用してドクターが瞬時に把握し、「かかりつけ医」として機能できること目指す計画です。

野口参事官は診療情報を電子化することで、情報を提供する病院側も金額的な負担が小さく、患者さんも携帯電話などに情報を取り込む際に最小限の入力や操作ですむ仕組みを考えていることを説明しました。具体的には、遅くとも2013年度には診療情報明細書と薬の調剤情報(お薬手帳)を電子化し、そのデータを患者さんが持ち歩いて別の病院で診察を受ける際にも見せる、あるいはその病院のシステムに取り込んで活用できるようにするとのことです。

医療の地域連携を目的とする病院や診療所間での情報やり取りについては、①診療で集めた検査や画像情報をインターネットで送受信できるように標準化したフォーマット(様式、書式)を作る。②患者さんが広範囲に複数の病院を受診しても対応できるように患者さんにID番号をつけて効率的に情報を管理する―などの案を提示。そして、共有したデータを使って生活習慣病の予防に向けたモニタリング調査や、病院と介護施設との連携にも活用を広げる計画を立てていることも説明しました。

医療分野のIT化の柱として進めてきたレセプト(診療報酬)請求のオンライン化については、電子データとして集める作業はできているが、その情報の利活用は進んでいないとのこと。2011年からは順次、このレセプトデータの公共目的での公開も検討していることも報告しました。野口参事官は「医療のIT化に“患者さん”という新しいルートを加えることになるため医療機関、患者さんと対象によって渡すデータを吟味する必要がある」と語りました。

電子カルテ、患者データの利活用進まず

医療IT化として各病院に“鳴りもの入り”で導入された電子カルテは、医師や看護師が情報を共有するチーム医療の向上には一定の成果をあげてきました。患者さん情報の院内データ蓄積には効果的でしたが、病院ごとにシステムが異なり、病院間、診療所間の連携にはまだ活用が進んでいません。千葉市立青葉病院の高橋長裕院長は「データが積み重なるだけで、それらを分析し、病院経営や地域連携クリニカルパスなどにフィードバックできていない」と課題をあげ、膨大に集められた医療情報を専門的に分析できる人材が必要としました。

また、介護分野からは、老健や特養、居宅支援事業所を経営する社会福祉法人・東京聖新会の尾林和子理事が、利用者のケアプランを作成する際の病名がきちんと把握できないことを訴え、「特に高齢者には、母子手帳のように各病院を受診した際の医療情報を集約できるものがほしい。利用者を病院に救急搬送する場合などに適切な対応をするには不可欠」と強調しました。患者さんの立場からは、乳がんの患者会「アイビー千葉」の齋藤とし子代表が、これまでも患者さん自身で治療や薬について記録する運動を続けていることを紹介し、「紙ベースだと紛失したり、管理が難しい面もあった。IT化でどこでもマイカルテが実現すれば便利になるし、患者中心の医療の実現につながる」と話しました。

マイカルテで過剰診療、重複診療を防止

研究会では、ソフトバンクモバイル、富士通、NEC、富士フィルムなどIT関連企業が、二次元バーコード(QRコード)を使った患者情報の携帯電話への取り込みや、インターネット上のサーバーに診療データをのせて複数の医療機関で情報共有できるようなクラウドコンピューティングシステムについて技術的な側面から紹介。すでに、赤外線通信を使って患者さんの携帯電話に自身のカルテ情報を送るシステムを導入しているクリニックからの報告もありました。しかし、積極的に利用する患者さんがまだ少ないとのこと。また、個人情報のセキュリティは確保されるか、送受信するデータが本当に患者さん本人の真実のデータなのかなど検証が必要な課題も挙げられました。どこでもマイカルテ研究会の主催者である竜崇正さん(NPO医療・福祉ネットワーク千葉理事長)は「患者さん自身が自分のカルテ情報を管理できる仕組みができれば過剰診療、重複診療が防げるし、医療連携も進む」と話し、今後、マイカルテにのせる情報やカルテを書く医療者側の意識改革について具体的に検討する考えを示しました。

※当日の様子は、「医療経営」(2010年9月号)に掲載されました。