【医療者海外研修】2010年度 がん医療従事者海外研修リポート アメリカ・デトロイト市のプロビデンス総合病院

2010年度 がん医療従事者海外研修
アメリカ・ミシガン州デトロイト市 プロビデンス総合病院
2010年8月29日~9月5日

日程:2010年8月29日~9月5日

研修先:プロビデンス総合病院(アメリカ・ミシガン州デトロイト市)

参加メンバー:7名
竜 崇正(団長・NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長)
井上 雅寛(千葉県立病院群研修医)
沖本 光典(千葉県救急医療センター診療部長)
酒井 えり(千葉県がんセンター臨床検査技師)
西 育子(千葉県がんセンターがん看護専門看護師)
横土 由美子(千葉県がんセンター看護師長)
吉竹 貴克(千葉県立病院群研修医)

参加者募集のご案内

第3回目の海外研修を開催します。千葉県内の医療関係の皆様、ふるってご参加ください。研修先は平成20年度実施の第1回の研修先であるデトロイト市のプロビデンス総合病院です。がん医療のみでなく、アメリカならではのgun shotを中心とした救急医療などもしている2つの病院を持つ総合病院です。外科責任者のマイケル・ジャコブス教授はまだ40歳前半と若い新進気鋭の外科医で、日本文化の大の理解者です。また、ナース・プラクチショナーのローリー看護師も平成21年9月に千葉市内で行われた日本胆道学会に参加し、「今求められる看護師の役割とは」について講演をしています。指導スタッフのみでなく、レジデントとの交流を通じても多くのことが学べると思います。短期間ですが、ただの団体見学でなく一人ひとりの希望に沿った研修ができるものと思います。(竜 崇正)

ナース・プラクティショナーとは(Nurse Practitioner)

アメリカ合衆国(全50州が認めている)においてみられる上級看護職。一定レベルの診断や治療などを行うことが許されており、臨床医と看護師の中間職と位置付けられている。医師の補助のほか、医師のいない過疎地域などにおいて自ら診療行為の主体となっている場合もある。初期症状の診断、処方、投薬などの行為を行うことができるが、外科手術などはできない。アメリカ合衆国では、医療費や医師の給与が高額なため、ナース・プラクティショナーの導入には医療コストの削減という側面もある。日本では医師や歯科医師以外が診断や薬剤の処方などを行うことが認められておらず、現状ではナース・プラクティショナーに相当する職種は存在しない。

報告レポート

井上 雅寛(千葉県立病院群 研修医)
看護スタッフなど豊富。医師が治療に専念できる環境整う

記録的な暑さとなった平成22年の夏、私はNPO法人医療福祉ネットワーク千葉主催の海外研修に参加させて頂きました。場所は一昨年と同じくアメリカ、デトロイトにあるプロビデンスホスピタル。メンバーはNPO法人の理事長である竜崇正先生、沖本光典先生、他看護師2名、検査技師1名、そして千葉県がんセンターの臨床研修医2名の計7名。緊張と興奮を胸に海外研修へ向かいました。病院研修は2日目から4日目まで行いました。

私は整形外科志望であったため、初日、2日目と整形外科の人工股関節置換、人工膝関節全置換術、手の外科の手術見学をさせて頂きました。初めてみるアメリカの医療とのことでかなり意気込んで見させて頂いたのですが、術式自体は日本との違いはほとんどなく、むしろ日本の方が繊細で丁寧な印象を受けました。しかし、手術前後の管理については日本とは大きな違いがあり、看護師他スタッフの数も豊富で、事務作業がほとんどなく、医師が患者の治療に集中できる環境が整っていると思われました。
また手術以外にも、最先端の医療設備を見学させて頂いたり、若手医師の集うカンファレンスに参加させて頂いたりと、期間は3日間と短かったですが、とても充実した研修となりました。特に同世代の医師の研究発表を聞くことができたことは、今の自分と照らし合わせて、非常に今後の参考になりました。

病院研修が終わってからは、ナイアガラやデトロイト市内観光など、アメリカの文化に触れることもできました。デトロイトではモータウンミュージアムやフォードミュージアムなど、やはり音楽、自動車の街というだけあり、とても素晴らしかったです。
今回の研修ではアメリカ人のホスピタリティに最も驚かされました。デトロイト空港に降り立ってから最終日に至るまで、ウェルカムパーティーに始まり、バーの屋上での飲み会、ホームパーティーと、いつも誰かが私たちをもてなして下さいました。特に街のレストランで夕食を食べていたときに、マイクがふらっと現れた時には、ここまでしてくれるのかと胸が熱くなりました。
日本とアメリカとの大きな違いは、アメリカでは来客者に対し、皆でもてなそうという意識が浸透していることだと思います。日本では私は関係ないからと恥ずかしがってしまうところが、アメリカでは、家族から親戚まで、果ては近所の人までパーティーにやってくる。そして上下関係なく楽しく騒ぐ。最近の日本では人間関係が閉鎖的になりがちですが、このことは見習うべきだと肌で感じました。

最後になりましたが、今回の研修を企画して下さった竜先生、そしてアメリカで私たちをもてなして下さった方々。特にプロビデンスホスピタルの教授であるMichael J.Jacobs、ナースプラクティショナーのLou Martinにはアメリカでの生活から研修のコーディネートまで全て取り仕切って頂き、とても充実した研修を送ることができました。この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

沖本 光典(千葉県救急医療センター 診療部長)
ナース・プラクティショナーの活躍がチーム医療のカギ

1、プラクティショナーナース(PN)が大活躍していた。冠動脈バイパス手術で、SVG採取、人工心肺の操作、麻酔すべてPNが手掛けていた。チーム医療により外科医が自分の仕事に専念できる環境となっている。

2、ER(救急室)はずっと個室で感染症(サーズなど)に配慮が行き届いていた。病室もすべてシャワー付きで、アメリカの経済力の豊かさに驚かされました。

酒井 えり(千葉県がんセンター臨床検査技師)
仕事が細かく分かれ、個々が責任を持つ。他人の仕事には介入せず。

2010年8月末より一週間、デトロイトのプロビデンス病院の見学研修旅行に参加させていただいた。臨床検査技師になり20年、いままでの仕事の大半は病理検査業務であり、他施設の方法をみて参考にしたいと思っていた。アメリカデトロイトの病院を見学に行かないかと誘いがあった。英語が、まったく苦手なこともあり躊躇したが、これも縁と思い参加することにした。研修の一週間前に顔合わせ会があった。研修仲間とほぼ面識がなく心細い上に、実際は一人で研修先を観ることになることを知らされどうなるかと心配だった。しかし、研修先で出会った人々がみんな親切であり驚いた。何とか会話をしようと思い浮かぶ単語だけで、しっかり聞いて理解しようと異なる言葉で確認してくれた。出会った皆が教えることに慣れていてわかりやすかった。

プロビデンス病院見学については、個人の仕事が区分けされていて、我々のように広範囲の仕事を複数人で担当するのではなく、他人の仕事には決して介入しない様子だった。病理検査の手技は大きな差はなかったが、細かなことでいくつか参考にできることがあった。意外にも日本メーカーの機械が多く、我が検査室よりもより日本製が多かった。プロビデンス病院の関連病院、がんセンター・救急病院の見学では、規模の大きくなる未来をみすえた病院建設、土地、経済力の違い、限度を設けない発送に「大きい」アメリカを感じた。

研修旅行の仲間にも恵まれた。みんな前向きで勉強熱心であった。(私は最近忘れていた感覚である)いかに良い医療を提供するかを考えている様子は、現仕事に慣れ切ってしまった私を刺激し、「頑張らないと」という気になった。

病院の研修以外にも充実していた。初日の夜はウェルカムパーティーを開いていただき、大勢の方が歓迎をしてくださった。その際には習いたてのお茶を振る舞う機会を得た。ナイヤガラの滝観光でカナダに1泊、DIA美術館鑑賞、研修仲間との夕飯(ソムリエの選択でおいしいワインを飲みながら)、最後の夜には湖畔の大きなお宅でのホームパーティーも。そのパーティーにも大勢の方(かわいいお譲ちゃんたちも)がいらっしゃって家族のように接していただいた。これぞアメリカという感じである。この研修旅行だからこそできたことがたくさんあった。個人旅行では決して体験できないあたたかなおもてなしを感じた。最後に英語ができないことを実感し、少しは何とかしようかという気にさせられたことも今回の研修で私には大きなことであった。充実した一週間をありがとうございました。

西 育子(千葉県がんセンターがん看護専門看護師)
医師とコメディカルスタッフの対等なパートナーシップが印象

アメリカ合衆国の看護の現状、プラクティショナ―ナース(PN)や専門看護師(CNS)の役割と活動の実際を知ることを目的に研修に参加しました。医療の現状は総体的にマンパワーが豊富で、清潔ケアなど生活面のケアは助手が全面的に担当する、看護師の中でも経験や立場(ラダーのようなものか)に応じて役割が明確に分かれているなど、分業が進んでいました。NPやCNSの知識と経験、専門分野におけるマネジメント力は非常に高く、医師やコメディカルスタッフとの対等なパートナーシップが印象的でした。それぞれの専門性が認められ、評価されていること、システムが確立されていることによるものと言えるでしょう。

数名のCNS、NPと個別に話をする機会をいただきました。活動上大切にしていることや役割は、日本のCNSと大きな違いはありませんでした。活動において工夫していることなど意見交換もでき、有意義な時間となりました。

研修を担当、調整してくださった現地のNP、医師、看護スタッフ、彼らの家族も含めた交流の場も多く、あたたかな雰囲気で楽しい時間を過ごすことができました。

 

 

横土 由美子(千葉県がんセンター看護師長)
看護師の役割のシステム化が参考に。将来日本でも導入を。

デトロイトにあるプロビデンス病院にて研修を行った。ナースプラクティショナーの看護についてシャドーイングを通して学んだ。日本にはまだない看護職の地位であるが、将来的に導入されるであろう地位とその役割、実際の活動内容を学ぶことができた。日本で行われている看護と内容に大きな違いはないが、そのシステム化された活動内容は参考にすべきだと思われた。

日本の風土、各病院の風土によって参考、導入できる部分は違うが、積極的に受け入れ、病院機能が充実かつ効率的に改革されるべきだと思われた。

 

吉竹 貴克(千葉県立病院群研修医)
病院建物、将来の建て増しが可能。ゆとりある造り。

平成 22年 8月 29日 より9月 5日 まで、NPO法人医療・福祉ネ ットワーク千葉による海外研修事業が行われた。私を含めた研修医 2名 と医師、看護師、臨床検査技師の計 7名 が参加することとなった。この事業は毎年夏―秋にかけて行われてお り、年によつて地域は異なるが海外の病院を訪問 している。現地で行われている診療の実態を知ることで我々が 日常行つている診療 との違いを知 り日本での診療に活かすことを目的としている。本年度はアメリカ合衆国、 ミシガン州デ トロイ ト市のProvidencehospital、 そ して Providence park hospitalを 訪問することとなった。

この病院は病床は 365床 であり、創立 156周年の歴史ある病院である。また教育病院 としても指定されている。私は循環器内科を志望 していることもあり、今回は循環器内科の CardioVascularICU(CVICU)の fellowと 朝から夕方まで同行 させていただいた。CVICUと い うものは 日本でい うCCUと 同一で急性心筋梗塞や心不全 といつた内科の患者 と、心臓血管外科手術後の患者を収容 している。

設備はさすが米国といった感 じで土地があるためか全ての部屋は少し日本より広く、プライバシーに配慮 されて個室 となっていた。マンパワー的には基本的には residentと senior resident,fellowで 管理 している点は日本 と大凡かわらない印象であった。一番大きく異なる点は朝 と昼のカンファレンスであつた。朝は循環器内科の教育担当者 (お そらく部長)と のラウンドがあり、residentは ガチガチにな りながら自分の受け持ちの患者の部屋の前で患者紹介をする。上級医が residentの 患者紹介を聞いた上で何故そ う思うのか、判断の根拠、他の疾患の鑑別はいくつ挙げたか、具体的に繰 り返 し聞いてお り、residentた ちが discussionしていたことがとても印象的だった。 しかも朝に加えて昼にも集中治療専門医によるラウン ドが行われる。視点が異なる二人からの指摘によつて一人の患者からresidentが学ぶことはとても多い。私が研修 していた病院でこのような教育的ラウン ドはあま り見たことがない。厳 しいがとても羨ましい環境に思えた。

しかし、非常に驚 くべきことに、エコーはエコー技師が行い、胸部 XP、CT,MRI等 も画像を見ずに所見を読むだけ (逆 に言えば全ての画像診断において読影所見がついているわけだが !)、 とい うことである。循環器内科医として行 うのは検査のオーダーを行い、所見から治療方針を立てるだけのように感 じた。良くも悪 くもアメリカらしい分業制であるなぁ、と思わざるを得ない。 日本では全て医師が検査、診断、治療を行つてお り、特に循環器内科は多忙を極める事が多い。 しか し、アメリカでは分業を進め、医師の負担をできるだけ減 らし、それぞれの分野のエキスパー トが最高の仕事を行ない患者へ良い医療を提供 しようとい う意図が垣間見えたような気がした。

別の 日にはデ トロイ トにあるProvidenve Park Hospitalと い う4,5年前 くらい前に設立された病院を見学 した。ゆったりとした作 りで 日本 と比ベると何もかもがゆとりがある。一番印象的だつたのは、将来の人 口増加による患者数の増加に対 し、建て増 しで対応できる、とい う点なのだ。 ここまで聞いても多くの 日本人は「敷地に余裕があるのか」程度で考えて しま うが、アメリカは違 う。お城で例えるなら、外堀から建物を作っているのである。

将来建て増しの際には内側へ向かって増設できる仕組みだそうで、下水や電気関係の地下配線をもともと埋め込んであるらしい。日本人としての常識的発想が覆されカルチャーショックであった。それ以外にも病棟においてすべての部屋が個室であり、しかも個室と個室の間に看護師の記録台があり、小窓から二つの個室をのぞくこともできるという素晴らしい設備であった。日本の病院の将来像を見たような気がする。

デトロイトにおける海外研修によって私は、医療とくに研修のあり方ありかたについてとてもよい刺激を受けた。今後後期研修を行うにあたって海外の residentのラウンドにおける真摯な姿勢について見習うことは多いし、私の今までの研修についても反省すべき点が多い。海外の医療事情を知ることができる機会は今後そうないだろう。今回、竜医師をはじめとするNPO法人医療福祉ネットワーク千葉のみなさま、および同行していただいた皆様にはよい海外研修を終えられたことにとても感謝している。同時にぜひ今後一人でも多くの医療関係者の方が海外研修に参加し、よりよい医療のために思いを新たにすることをお勧めしたい。