【Dr.竜が深掘り!読み物編】第二弾vol.3 がんの画像診断ー動画対談を読み物にしました

【Dr.竜が深掘り! 千葉発 令和のがん医療】
第二弾vol.3 読み物編
がんの画像診断
患者さんにとって最適な治療を決める情報を多角的に示す
高野 英行(千葉県がんセンター診療部長/画像診断部医師)
竜 崇正(NPO法人医療・福祉ネットワーク千葉理事長)

竜先生:
今日のスペシャルゲストは千葉県がんセンターの高野英行先生です。高野先生は、千葉県がんセンターの画像診断部で多くの患者さんの治療に関わってくださり、今は診療部長。私がもっとも信頼する先生です。いろんなことに知識が豊富で、将来を見据える力もある。患者さん本意の診断をしていて、この患者さんにはどんな治療がいいかを適切に判断していただける診断医だと思っています。がん患者さんの画像診断について、お話をうかがいます。高野先生は、千葉大学医学部を卒業されて放射線科に入られたんですよね。

高野先生:
はい。そのころは、千葉県では各科がそれぞれ診断をしているような状況でした。やはり、欧米型に沿った診断を専門とする医師が必要だろうと感じて私は放射線科に入りました。

竜先生:
私は千葉大学第二外科なんですけれども、主に手術をやるところです。そこに、画像診断をやる研究室があったんですね。そのころは「X線研究室」と呼んでいました。放射線診断、血管造影、消化管造影などを行っていて、その後、超音波検査やCT検査などにも関わるようになりました。私自身も実は画像診断が専門だと思っていまして、そういう教科書も出したことがあります。でも、高野先生と付き合ってみると、私の行っていた診断と全然レベルが違いました。高野先生は、もっと深く広く見て診断していたんですね。そのあたりは放射線科として教育を受けて、新しい分野である画像診断を実践していかれたということですよね。

全身的な診断ができるのが放射線科医の特徴

高野先生:
まあ、そんな感じですね。放射線科医は全身の画像を見ています。外科の先生は局所解剖は優れていますが、それを超えた部分とかを含めて全身的な診断をするというのが放射線科の特徴です。

竜先生:
そこが本当に違うところです。特にがんの診断ですね。千葉県がんセンターでは、がんと診断されてここに来る方がほとんどです。そういう方に対する画像診断はどういうことに重点をおいて行っているのでしょうか。

他科の医師とディスカッションしながら治療法を探る

高野先生:
画像を撮るというところはあまり変わりませんが、それをどういうふうに臨床に返していくかというところに重点を置いています。というのは、やはりカンファレンスで会話をしながら、今外科医がどういうことを中心に手術ができるかのかを判断し、私たち画像診断部はそのことに対してこう応えていこう、などと考えるわけです。今は、化学療法もだいぶ変わってきている。化学療法、分子標的薬といういわゆる薬物療法が進んでいます。昔は、手術で切れる切れないというので終わってしまっていました。今だと、先に薬物療法をやって、ここまでがんを小さくすれば、これは手術に行けるのではないかなど検討して、分かりやすいように、三次元画像を使いディスカッションしながら画像診断を進めていくということになります。

竜先生:
しばらく前までは、この患者さんは手術ができるかできないが診断のポイントだったんですね。ところが、いろんな治療が開発されて、手術できないから絶望…じゃなくて、手術できなくたって治療法がいくらでもあって、その治療方針を決めるための画像診断という新しい分野が大事になっているということですね。昔はなかなか治らなかった肺がんやすい臓がんなども、いろいろな分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、だいぶん様相が変わってきましたよね。そういう意味では、転移の有無だけでなく、これはどういう治療がいいかまでを考えての画像診断なんでしょうね。

高野先生:
…そこまでできている、とはなかなか言えませんが、臨床医の見解と合わせて一番良い治療法を決められるように、画像を一枚含めながら進めています。

竜先生:
具体的に聞いてみたいと思います。まず、固形がんで来られた方には、CTとMRIの両方をやるのですか?

臓器に応じてCT、MRIを使い分ける

高野先生:
それは臓器にもよります。血管を見るのであれば、造影CTの方がいいですし、肝臓への転移であればMRIの方がより細かい部分まで見て手術ができるかどうか判断しやすいです。転移がある場合は、手術が一番最初の方法ではない場合が多いです。でも、経過を見て、治療によって転移がほとんどなくなった、あるいは血管浸潤しているのが小さくなったということにが分かれば、手術の適応になったりします。病気の経過を見ることができる。病理医ですと局所的にしか診れないけれども、画像はそれを連続的に見られるので、患者さんの経過が分かります。あとは、それ以外に免疫チェックポイント阻害薬ですと、副作用も出てきますので、間質性肺炎の有無なども診ることができます。

竜先生:
まずは、手術しない方がいい、無駄な手術をしない方がいいということを見極めるには、CTだけではなく、MIRも撮って、造影CTでも分かりにくい小さな転移も分かるのですね。無駄な手術を避けて、体力や免疫力を温存しながら抗がん剤治療などをやった方がかえって長生きできるし、治る場合もある。
肝転移へのMRI診断のほか、腹膜転移の診断はどのように行いますか。

高野先生:
腹膜転移は、弱いところがあります。MRIだと横隔膜のところが動いてしまい、分かりにくいということもあります。おなか全体であれば、CTを細かく撮っていろいろな方向の再構成をすることで、昔に比べて正確に診断できるようになってきました。

竜先生:
なるほど。今は何列のCTですか。

高野先生:128列のスライスです。

がん転移の診断はPET-CTも活用

竜先生:
非常に細かい診断を短時間にできるようになってきた。ありとあらゆる方向からの画像と再構成ができるので、体の中解剖が手に取るように分かる時代になった。あとは、転移の診断ではPET-CTなどがありますね。

高野先生:
局所のものが悪性度が高いかどうか調べるのと、遠隔転移が通常起きそうなところはCTでカバーしています。PET-CTは、そうでないところ、胸の中など普段は見えにくいところを診るのに役立ちます。

竜先生:
PET-CTを絶対やったほうがいい疾患はありますか。

高野先生:
肺に転移を起こしやすい疾患や、胸に転移を起こしやすい疾患、前立腺がんなどでしょうか。腫瘍マーカーの値がどうも高すぎるという場合に、遠隔にもがん転移を起こしているのではないかという時にPET-CTをやると有効ですね。

竜先生:
なんとなく、がんが心配だからPET-CTを撮るという人いますよね…。

高野先生:
それはちょっと有効ではないです。ある程度の大きさがないと、PET-CTでも見つかりませんからね。

竜先生:
通常の健康診断レベルでPET-CTをやると、過剰診断になったりしますね。まずはきちんと、CT、MRI、超音波などを使った正常診断をしてからということでしょうか。今は、血液1滴、尿でもがんが診断できるという話も聞きますが、こういう話はどのように受け止めていますか。

血液一滴でがん診断…実際はどこにがんがあるのか分かりにくい

高野先生:
血液一滴でがんが見つかりました。じゃあ、どこに見つかったのですか、という話になってきます。一つの腫瘍マーカーが上がっても、絶対そこのがんとは限らないので、いろんなところ調べないといけないのです。どこにあるか分からない、大きさも分からない、ということあれば、結局CTやMRIで場所を特定していかなければならない。腫瘍の大きさ分からないと、化学療法をやっても、本当に効いて小さくなったのかも分からないんです。がんが小さすぎると、どこにあるか分からないですし、手術で切ることもできません。基本的には、過剰診断になってしまう可能性があります。治療法を決められない状態だと、3カ月間、6カ月間待ってもらうことになり、がんが大きくなるまで待ちましょう…というような話になってしまいます。かえって患者さんの不安を増大させてしまうことになりかねません。

竜先生:
血液一滴でがんの有無を調べると、「がんはあるかもしれない、でもどこにあるか分からない」「もしかしたらないかもしれない」…ということでいたずらに不安になってしまうかもしれませんね。今のがん医療の進歩を考えると、通常のがん検診で診断し、そこからの治療をしてもおかしくない。画像診断で見つかるようになってから治療を始めても手遅れということにはならないんですね。

高野先生:
まれに進んでしまう場合もありますが、小さいうちにがんを見つけたとしても、どこにあるか分かりにくいなどなかなか適切な治療をすることができないです。通常のがん検診に近い状況で見つかる程度のがんにならないとなかなか治療に進めないということがある。

がんをいたずらに恐れず、人生楽しみながら免疫力をつけるのが一番!

竜先生:私たち、長生きしていればがんになるリスクはあるんです。細胞レベルあれば、もしかしたら、すでに体の中にがんがあるかもしれない。それを免疫力で排除してくれている。免疫力でがんを排除する力をつけ、楽しいことをしながら免疫力をつけていく。がんをいたずらに恐れて、血液一滴からがんをみつけようというようなことはしない方がいいということですよね。

高野先生:
そうですね。がんが見つかったとしてもどこにあるか分からない、どうしたらいいんだということになる。がんも画像診断で見える範囲にならないと、なかなか治療もできないということを考えると、そこまでしない方がいいのではないかと思います。

竜先生:
ありがとうございます。今日はがんの診断から、最先端のところまで詳しいお話をお聞きすることができました。